頭頂葉や後頭葉に病変が起きることが多いアルツハイマー型認知症では、初期から目と手で協調しながら進める動作が下手になっていきます。

 さらに進行すると、地図を見て目的地へ行くことも難しくなります。図形を描くことも下手になり、立体感や距離感が失われて、車の運転中に縁石にぶつかったり、歩行中にドアにぶつかったりする危険性が増してきます。また、目的のものをつかむことが下手になります。

「読書や楽器の演奏ができない」
複雑性注意の障害

 視認知の障害は、図形を写してもらうテストや「時計描画検査」(図4-3)の検査によって、病状を明らかにできます。時計描画は、時計の絵を描いて「11時10分」などと指定された時刻を長針と短針で示してもらう検査ですが、脳内に記憶されているであろう時計というおなじみの図形の記憶をもとにして、図形感覚の良し悪しを判定します。

図表:時計描画検査同書より転載
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 複雑性注意の障害は、「DSM第5版」で新たに取り入れられた中核症状です。複雑性注意機能とは、注意力を保ち、集中して物事を遂行する機能で、重要な高次脳機能の1つです。

 気持ちが散漫になり、集中力が続かなくなると、ミスが増えて、作業が遅れます。また、大勢の人の中から特定の人物を見つけることができなくなり、「ウォーリーをさがせ!」のような問題に答えるのが困難になります。

 注意力を保つ時間も大切で、その時間が短くなると、読書や文章の執筆、車の運転や試験問題への解答、楽器の演奏など、多くの知的・精神的作業に支障をきたします。外科医が手術をする、スポーツ選手が試合をおこなうなどといった場合にも、大切な役割を果たす機能です。

 認知症では、複雑性注意機能が障害されてきます。このような機能は、解剖学的・脳生理学的には前頭葉と頭頂葉のネットワークによって支えられています。