「たしかに…」あれほど欲しかったロレックスが、どうでもよくなった納得の理由
誰にでも、悩みや不安は尽きないもの。とくに寝る前、ふと嫌な出来事を思い出して眠れなくなることはありませんか。そんなときに心の支えになるのが、精神科医Tomyが教える 50代を上手に生きる言葉(ダイヤモンド社)など、累計33万部を突破した人気シリーズの原点、『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)です。ゲイであることのカミングアウト、パートナーとの死別、うつ病の発症――深い苦しみを経てたどり着いた、自分らしさに裏打ちされた説得力ある言葉の数々。心が沈んだとき、そっと寄り添い、優しい言葉で気持ちを軽くしてくれる“言葉の精神安定剤”。読めばスッと気分が晴れ、今日一日を少しラクに過ごせるはずです。

【精神科医が教える】なぜ年をとると物欲がなくなっていくのか?Photo: Adobe Stock

物欲は「幻想」なのでしょうか?

今日は、「物欲は基本的に幻想である」というテーマでお話ししたいと思います。

物欲が強い方や、どうしても欲しいものがあって我慢できないと感じる方もいらっしゃるでしょう。私自身も、かつては物欲がありました。年齢を重ねるにつれて物欲は減っていく傾向にありますが、特に若い頃は強い物欲を持っていた記憶があります。

しかし最近、この「物欲」というものは、人間が本来持つ欲求とは少し違うのではないかと感じるようになりました。物欲に駆られて行動してしまうと、後になって「もったいなかったな」と感じたり、興味を失った時に後悔したり、時にはトラブルの原因になったりもします。

きっかけは「ロレックスが欲しい」青年

このテーマを思いついたのは、先日あるテレビ番組を見たことがきっかけです。番組に出てきた20代くらいの青年が、「どうしてもロレックスが欲しい」と話していました。彼には、亡くなったお父様がくれるはずだったロレックスがあったそうなのですが、それが見つからなくなってしまい、探しているという内容でした。

その姿を見て、私も若い頃にロレックスのような高級腕時計に強く憧れていた時期があったことを思い出しました。今ではその興味はすっかりなくなり、機能性重視のスマートウォッチを着けているだけです。

「いつでも手に入る」と思った瞬間に興味は薄れる

では、なぜあれほどあった腕時計への興味がなくなったのでしょうか。それは、年齢を重ねて、「自分のお金で買おうと思えばいつでも買える」という状況になったからだと思います。

皮肉なことに、いつでも手に入ると感じた瞬間に、逆に「欲しい」という気持ちが薄れてしまったのです。もちろん、好きなだけ贅沢に買えるわけではありませんが、「決意すれば買える」状態になった途端、「今すぐ買わなくてもいいかな」と考えるようになりました。

私が最も物欲が強かったのは、高校生や大学生の頃でした。その当時は、どんなに欲しくても簡単には手に入れられなかったからこそ、いろいろと調べたり、手に入れることを夢見たりしていたのです。

物欲の正体は「手に入らないものを手に入れたい」という欲求

この経験からわかるように、人間が何かを「欲しい」と強く思うのは、「手に入れられそうで、でも簡単には手に入らない」という状況があるからです。つまり物欲とは、物そのものに対する欲求というより、「手に入らないものを手に入れたい」という欲求なのです。

そうなると、これは本来の欲求とは少し性質が異なってくると言えるでしょう。もし、実際に手に入れてから「もういらない」となってしまっては、経済的な損失は非常に大きいです。そのお金は、他のもっと有意義なことに使えたかもしれません。

「手に入れた瞬間」がピークであると知る

ですから、もし強い物欲に駆られた時は、もちろん手に入れようとワクワクする気持ちも大切ですが、同時に「手に入れた瞬間が興味のピークである」ということを認識しておくと良いかもしれません。

そのように捉えることができれば、「ここでしかできない経験」や「自分のための勉強」といった、形のないものにお金を使うという選択肢も自然と生まれてくるはずです。

きりがない物欲との向き合い方

結局のところ、よく言われるように物欲にはきりがありません。手に入れるまでの過程が最も楽しく、一度手に入れてしまえば、それはもう「手に入れられるもの」に変わってしまいます。すると、また次から次へと新しい「手に入らないもの」を追いかけることになりがちです。

これは、常に誰かの顔色をうかがい続けなければならない状況と似ていて、ある種の終わりのないタスクのようになってしまいます。物欲も、一つ手に入れてしまったらそこで満足が終わってしまうため、また新たな物を際限なく欲しがるというサイクルに陥ってしまうのです。

※本稿は『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)の著者による特別原稿です。