
戦争に行く人にお茶をたてた人とは
ラフスケッチからストーリーが生まれた。だが、まだ、世の中には出ていない。それにいわゆる大ヒット作の『アンパンマン』のような頭身の小さいキャラクターではない。サブタイトルもひらがなだ。いわゆる『アンパンマン』になる日はあと3週間で来るのか。
残り3週間なので、登場人物たちが腰をあげはじめた。羽多子(江口のりこ)はいよいよ、夫・結太郎(加瀬亮)の軌跡をたどる旅に出ることにする。ひとりで行こうとするが、メイコ(原菜乃華)がついていくと言う。子供はどうした? まだ子離れには早いのでは。
健太郎(高橋文哉)が面倒を見てくれるというのか。令和じゃないんだから、そんなことはないと思うのだが……。まあ、長い旅ではなく温泉に行くくらいならありだろう。
嵩は手嶌治虫(眞栄田郷敦)の仕事場にこもって『千夜一夜物語』のデザインに精を出す。手嶌は妥協しないで、締め切りを過ぎてもナットクがいくものを嵩に描かせようとする。
手嶌がショートスリーパーで、ひたすら仕事をし続ける。それを見て、自分はこんなふうになれないと思うのだが、手嶌のモデル・手塚治虫もショートスリーパーで、短命(60歳)だったのに対して、やなせは94歳と長生きだった。仕事の仕方の違いかどうかは定かではないが、短い期間で燃やし尽くした感じがする。
手嶌も、戦争体験が仕事に影響を及ぼしていた。戦意高揚の映画なんて二度と見たくないという気持ちが娯楽作を生み出している。
手嶌の語る戦争体験を聞いている嵩の表情がつらそうだった。
そして、蘭子(河合優実)。八木(妻夫木聡)に言っていた「やりたいこと」とは、戦場で大変な思いをして帰ってきた人たちにインタビューをすることだった。
蘭子の話を聞いた登美子(松嶋菜々子)は、戦友たちが飛び立つときにお茶をたてて見送ったお茶の先生を紹介したいと言う。
登美子のお茶の先生とは、先ごろ102歳で亡くなった茶道裏千家の前家元・千玄室さんをイメージしたのであろうか。戦時中、特攻隊員として現在の鹿児島県鹿屋市にあった旧海軍の串良航空基地に配属された千さんは、飛行機の作業のあと、仲間のために野だてを行っていた。出撃前に転属になって生き残った千さんは、生涯、平和を祈り続けた。
戦後、何年たっても、戦争の傷(『あんぱん』ではトゲ)は消えない。令和のいま、戦後80年でもそうで、亡くなった人を悼み続け、平和を祈り続けているのだから、『あんぱん』の戦後20年くらいだと、なおのことであろう。