あんぱんまん?それとも、アンパンマン?

え、いきなり!?しれっと命名「アンパンマン」、片仮名で統一されたワケにぐうの音も出ない【あんぱん第117回】

 嵩とのぶのお気に入りの『アンパンマン』がついに雑誌に載ることになった。

 嵩に仕事を頼みに来ている編集者・本間詩織(平井珠生)が「なんでも大歓迎です」と言うので、例の『アンパンマン』を見せたところ、ラフスケッチのときと同じく、反応が芳しくない。
 
 太った主人公を減量できないか?と持ちかけられるが、のぶが「できません。個性ですから」と間髪入れずに拒否。

 いまや大ヒットアニメのキャラクターデザインも手掛けた、やないたかし先生の原稿を掲載できるとなったら背に腹は代えられない。本間は掲載を引き受けた。

 こうして雑誌に載った『アンパンマン』。一色の原画が2色に印刷されて掲載されていた。

「アンパンマンが日の目を見たのはのぶちゃんのおかげだね」と嵩。

 載ったのはいいけれど、カッコ悪い主人公がメイコ(原菜乃華)や登美子(松嶋菜々子)には不評だった。のぶだけは嵩の意を汲んでいる。

「子どものころから 悪いやつはこらしめないかんてそう思っちょった。それが正しいことで、正しいことをするのがかっこいいと思うちょった」とのぶ。そうじゃないとアンパンマンが伝えてくれているとのぶは嵩の思いを正しく理解している。

 子どもの時のぶに「痛めつけた相手に恨みが残るだけ。恨みは恨みしか産まん」と説いた羽多子(江口のりこ)ですら、社会的に害悪になる悪者はやっつけないといけないのではないかと言う。

 しかし、そんな“悪者”の側に立ったら、こちらが悪や正しくない側になるとのぶは、あの戦争の経験から痛いほどわかっている。

 アンパンマンのように、困っている人に食べ物を届ける行為によって、のぶ自身が救われているのだ。

「アンパンマンはもっと飛べる」と信じるのぶに、嵩は救われる。

 で、「あんぱんまん」なの?「アンパンマン」なの?問題である。

 ここで恒例の史実では。最初はカタカナの「アンパンマン」だった。1969年、『PHP』に1年間、挿絵つきの童話を連載したときの1編にアンパンマンが登場した。それがドラマに出てくるカッコ悪いヒーロー。戦場で敵味方関係なく、お腹をすかせた人に空を飛んでパンを配るお話だった。

 やなせたかしは「自分の生活を守ってくれる人が正義の味方ではないかと思っていた」と語っている。

 1973年にフレーベル館から絵本を出すときに、幼児向けということで平仮名のタイトルになった。このときはビジュアルも、顔があんぱんの造形に変更されている。

 大人向けはカタカナ、幼児向けは平仮名だったが、やがてカタカナに統一された。

 やなせは「パンという感じがどうも片仮名でないとぼくにはぴんとこない。記号には過ぎないが、あんぱんとアンパンでは微妙にちがう。そしてぼくの好きなのはアンパンの方である」と『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)で書いている。