
酷暑を残したまま8月が終わってしまった。今年の夏は、単体で取り上げるほどではないが、営業制度関係で興味深いニュースがいくつかあったので、まとめて振り返ってみたい。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
西武鉄道が運賃改定で
小児運賃を50円均一に
まずは運賃改定だ。国土交通省は7月23日に西武鉄道、8月1日にJR東日本に対し、2026年3月に実施予定の旅客運賃の上限変更、つまり、運賃値上げを認可した(運賃改定の仕組みはこちら参照)。内容は昨年度に行われた申請の通りだが、注目したいのは西武鉄道の発表だ。
西武ホールディングスの鉄道分野における事業戦略と運賃改定の背景については過去記事でも取り上げたが(https://diamond.jp/articles/-/367073 参照)、彼らが重視するのが「沿線価値の向上」だ。遠からず首都圏でも人口減少が本格化する中、住みやすい沿線、選ばれる路線となることで、沿線人口を確保しなければならない。
その中で運賃改定はネガティブな出来事だが、隠し玉として発表したのが「小児運賃の均一化」だ。鉄道における小児とは小学生を指すが、小児運賃が適用される「こどもICカード」を用いた乗車を全区間50円均一とし、あわせて西武線が乗り放題となる「小児全線フリー定期券」を1カ月1000円で発売する。
小児運賃をめぐっては、小田急電鉄が2022年3月に小児IC運賃の50円均一化、京急電鉄が2023年10月に75円均一化しているが、発売制限のないフリー定期券の設定は西武が初めてとなる。
50円均一のインパクトは大きい。例えば、西武新宿線鷺ノ宮駅から本川越駅まで出かけた場合、普通運賃は450円、小児運賃は230円のところが、4分の1以下になる。小田急経堂駅から片瀬江ノ島に海水浴に行った場合、普通運賃は610円、小児運賃は310円のところが、6分の1だ。
家族4人で往復すれば相当の割引額になるが、鉄道事業者にとっては痛手ではない。小児利用者の割合は非常に少なく、収入における割合は1%に満たない。運賃値下げで子育て世代が沿線に流入し、鉄道を利用したお出かけが増えるならばプラスでしかないからだ。