
『ぐりとぐら』シリーズや『いやいやえん』など、子どもに愛される数々の絵本を生み出した児童文学作家の中川李枝子さん。彼女の創作の源になったのは、保育士として過ごした子どもたちとの毎日だった。彼女が生み出した名作たちの誕生秘話を紹介しよう。※本稿は、中川李枝子『本と子どもが教えてくれたこと』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。
子どもたちのために
紙芝居を制作
保育園には、どこからもらったのか、戦前の紙芝居がありました。なかには大正時代のものもありましたよ。
子どもたちは紙芝居が大好きで、終わると「ちぇっ、今日は十何枚か」なんて言う。12枚が一番短く、「今日は16枚だった」と言うときは、子どもたちの機嫌がいいのです。「それならもっと長いのをつくろう」と私は考えました。「この世にある最良のものを子どもに与える」が、私の願いでしたから。
それで、岩波の子どもの本の中でも大人気の1冊『ちびくろ・さんぼ』に決めました。まずは画用紙をいっぱい買ってきて、絵の具を揃えました。すると子どもたちが寄ってくる。子どもたちが遊んでいる間に紙芝居をつくり始めるのです。
こうして24枚の紙芝居をつくったら、大人気になって。特に、溶けた虎のバターを使ってホットケーキを焼くところが、みんなのお気に入りでした。この紙芝居は、最後は児童相談所に貸し出されました。今もどこかにあるかしらね。
次につくったのは「ぞうのバイちゃん」シリーズ。これは天谷先生(編集部注/中川さんが就職した「みどり保育園」の園長)が初版からずっと取っていらして保育園の棚に並べてあった福音館書店の月刊誌「母の友」に出ていたの。