原稿を読んだ百合子は「面白いから描くわ」と言ってくれました。こちらから注文は全然しなかった。私は常に低姿勢で「描いていただけるでしょうか。何とぞよろしく」という感じだったし。

石井桃子さんが教えてくれた
「子どもの本の書き方」

『いやいやえん』が同人誌「いたどり」に掲載されたのは、働き始めて2年目。

 できあがると、仲間たちが面白いと喜んでくれました。いぬいさんは編集部の上司だった石井桃子さんに渡してくださったの。岩波少年文庫で何度もお名前を目にしていた、憧れの方です。桃子さんは子どもの本研究会を始められたところで、取り上げてくださいました。それがきっかけで、『いやいやえん』は、子どもの本研究会編集、福音館書店刊行というかたちで出版することになりました。

名作絵本『ぐりとぐら』『いやいやえん』の作者が挿絵を頼んだ妹の返事が“生意気”すぎて面白い『本と子どもが教えてくれたこと』(中川李枝子 平凡社)

 桃子さんの指導のもと、また何度も書き直しました。書き直すのはちっとも苦にならなかったわね。そしてだんだん、わかってきました。「子どもの本の書き方は教わってわかるものではない。図書館の本を全部読んで、自分でつかむもの」って。私も少年文庫を全部読み、さらに『いやいやえん』を書くことで、自分なりに大事なことをたくさん会得しました。

 百合子も、石井桃子さんの助言で、挿絵を描き直しました。「モデルになる男の子を(みどり保育園から)借りてきて」と言われ、3年保育児の前田ひろしちゃんをお母さんに頼んで土曜日に連れ帰り、一泊してもらって、妹がつきっきりでデッサンしました。こうやって、『いやいやえん』は本になったのです。