
>>「長澤秀行・クオリティメディアコンソーシアム事務局長に聞く(上)」から読む
あなたの会社の広告が、意図せず不適切なサイトに表示されているかもしれない――。そんなことが現実となり得るのが、現代のデジタル広告の世界である。2022年には日本の広告費7兆1021億円のうち約44%を占めるに至り、最大の広告手段となったインターネット広告の信頼はなぜ揺らぎ、課題を抱えることになったのか。その根深い構造的問題と、これからのメディアや企業がとるべき未来への針路とは。前回に続き、日本のデジタル広告の品質改善に長年取り組んできたクオリティメディアコンソーシアム事務局長の長澤秀行氏に聞いた。(聞き手/Diamond WEEKLY事業部 編集長 小尾拓也、撮影/平野晋子)
なぜネット広告の質は
低下してしまったのか?
――インターネットメディアは国内最大の広告費を誇る市場でありながら、信頼度は旧来のメディアに比べて低いです。本来であれば、広告の量と質の管理は連動すべきなのに、なぜネット広告は量ばかりが膨れ上がり、質が低下してしまったのでしょうか。
理由は3つあると考えています。
1つ目は、前回も触れた「クリック課金モデル」の構造的な問題です。これは「焼き畑農業」のようなもので、とにかく網を広げて広告をばらまき、当たればラッキーという発想です。その商品に関心を持つごく一部の人にとっては良い広告かもしれませんが、残りの99.9%の人にとっては「なぜこんな広告を見なければいけないんだ?」という不快な体験でしかありません。
本来、新聞やテレビ広告では、良質なコンテンツが広告を包む「オブラート」の役割を果たしていました。人々はコンテンツを見に来て、そのついでに広告に触れる。コンテンツの力によって、広告に対する心理的な障壁が下がっていたわけです。しかし、クリックされなければお金を払わなくていいという仕組みが、このオブラート機能を完全になくしてしまいました。
2つ目は、「数字の可視化」への過度な依存です。クリック率、購買率、離脱率といった数字がリアルタイムでわかるため、広告運用者はその数字を上げることばかりに目が行きがちです。その結果、ターゲットから外れた人たち、たとえば「もうその商品を買った人」にまで同じ広告が表示され続けるといった、データの不正確さによる不快感を生み出しています。
そして3つ目が、これは最も根深い問題ですが、プラットフォームにおける問題です。特に外資系プラットフォーマーの広告審査機能が機能していないことです。各社ガイドラインはありますが、法的な強制力はありません。