「ニーベルングの指環」は主神、神々、巨人族、神と人間の子、人間、ニーベルング族などさまざまな種族が登場し、世界の始まりから終焉、そして混沌からの再生を描きます。「指輪物語」も旅、戦争、死、再生の長い物語が続きます。「葬送のフリーレン」もまた、フリーレンの旅が過去の勇者との記憶と現在を往復し、数十年、数百年、1000年という時間が描かれます。
「葬送のフリーレン」が世界の読者を引き付けているのは、神話とファンタジーの流れを汲んでいるからでしょう。
何より、アベツカサ氏の画風は細密、正確、繊細な美しさがあります。中世ドイツ風の景観も素敵です。アニメも、原作漫画を引き継いで非常に美しく仕上がっています。
連載再開後の展開は、大陸魔法協会(創始者ゼーリエ)、ゼーリエに敵対する「影なる戦士」たち、帝都を防衛する「魔導特務隊」、それにフリーレン一行が絡む複雑な物語で、目が離せません。画風は繊細で美しいと書きましたが、戦闘の描写は実は凄惨で生々しく、食事しながら読むのはやめたほうがいいかもしれません。

【参考文献】山田鐘人、アベツカサ「葬送のフリーレン」(1~14巻、2020~25年、小学館)、J.R.R.トールキン『最新版指輪物語』(瀬田貞二、田中明子訳、全7巻、評論社2022年)、J.R.R.トールキン『ホビットの冒険』(瀬田貞二訳、上下巻、岩波少年文庫、2000年)、吉田秀和ほか『バイロイト音楽祭 ニーベルングの指環』(音楽之友社、1984年)