社会の逆風、庄やから遠のく客足
バブル崩壊後の長期にわたるデフレ経済は、企業の交際費を徹底的に削ぎ落とした。庄やの主要顧客であった中高年男性サラリーマンの外食機会は減少し、客足は遠のいていった。
消費者の価値観も変化し、単なる安さや量だけでなく、店の雰囲気や居心地の良さといった付加価値が求められるようになった。若者世代のアルコール離れや日本人の魚離れといった社会構造の変化も、庄やのビジネスモデルに逆風となった。
「飲み中心」のメニュー構成はノンアルコール志向の若者層に響かず、強みであった魚介メニューは仕入れコストの上昇という形で経営を圧迫した。
2000年代以降、ワタミやモンテローザ、鳥貴族といった新興の低価格チェーンが台頭し、競争環境は激化した。庄やが築いてきた「中価格帯」というポジションは、徹底した低価格戦略を打ち出す競合の前で次第に魅力を失っていった。
コロナ禍は、すでに縮小傾向にあった居酒屋業界に決定的な打撃を与えた。
庄やの売り上げは、営業時間の短縮や外出自粛要請により激減した。運営会社である大庄の2025年2月時点のグループ店舗数は321店舗で、コロナ禍前の2019年8月時点の616店舗からほぼ半減する事態となった。庄やの直営店舗数も162店舗から63店舗へと大幅に縮小し、かつての栄光は過去のものとなった。
事業の縮小傾向が続く現状を踏まえると、店舗への期待値は必ずしも高くないかもしれない。しかし、実際に足を運んでみると、その印象は良い意味で裏切られることになる。
私は20年以上ぶりに「板前がいる町の酒場・庄や」(神田店)へ訪れた。そこで提供された料理は……純粋に美味しかった。すごく美味しかった。
「板前がいる町の酒場」といううたい文句は、決して誇張ではないと感じられた。刺身は新鮮で、街場の居酒屋にありがちな水っぽさはなく、焼き鳥も丁寧に焼き上げられていた。
価格設定も手頃で、コストパフォーマンスは高い。磯丸水産やさくら水産といった同業態の店舗と比較しても、料理の質は一段上にあると言える。
いくつかのメニューは期待よりも小ぶりなサイズで提供されることもあったが、味そのものに不満はなかった。