人類の歴史は、地球規模の支配を築いた壮大な成功の物語のようにも見える。しかし、その成功の裏で、ホモ・サピエンスはずっと「借りものの時間」を生きてきた。何千年も続いた栄光は、今や終わりが近づいている。なぜそうなったのか?『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』は、人類の繁栄の歴史を振り返りながら、絶滅の可能性、その理由と運命を避けるための希望についても語っている。竹内薫氏(サイエンス作家)「深刻なテーマを扱っているにもかかわらず、著者の筆致がユーモアとウィットに富んでおり、痛快な読後感になっている。魔法のような一冊だ」など、日本と世界の第一人者から推薦されている。本書の内容の一部を特別に公開する。

かつて地球を支配した生物
光合成は、細菌のあいだで別々に進化した例がいくつもあり、その回数は六回にのぼると考えられているが、私たちにとって特に重要なのは、シアノバクテリアと呼ばれる生物である。
その理由はふたつある。
第一に、シアノバクテリアで進化したタイプの光合成が、現在私たちが目にするすべての緑色植物(主要な農作物を含む)に直接つながる祖先型であること。
第二に、シアノバクテリアの光合成が、唯一、分子状酸素(O2)を副産物として生み出したことだ。私たちが呼吸している酸素は、何十億年も前にシアノバクテリアが始めたこのタイプの光合成に由来している。
かつて、シアノバクテリアは地球上で支配的な存在だった。その三十億年以上にわたる支配期間を考えれば、シアノバクテリアこそ、地球史上最も成功した生命体だったと言っても過言ではないだろう。
すべての生き物は…
彼らは今も広く存在している。池の水面に広がる青緑色は、まさにシアノバクテリアによるものであり、その色は、彼らが光合成のために太陽光をとらえる色素によって生み出されている。
十五億年から二十億年前のあいだに、シアノバクテリアを含むさまざまな細菌同士が集まり、協力しあうことで、より複雑な生命体が誕生した。こうして生まれた集合体が、いわゆる真核生物となった。
真核生物は、単独の細菌に比べてはるかに大きな細胞を持っている。今日私たちが目にする動物や植物、そして私たち自身も含め、すべての生き物は、この最初の細菌の連携から進化した真核生物の末裔(まつえい)なのだ。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)