「御社は、病気です」コンサルのひと言で、役員が笑顔になった理由とは?
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。

「御社は、病気です」コンサルのひと言が、会社を変えた
仕事において、報告はつきものだ。
コンサルのプロジェクトでは、第一回報告会、第二回報告会、中間報告会、最終報告会など、報告会でクライアントと意識合わせをしながらプロジェクトを進める。
では、伝え上手は報告会でどう伝えるのだろうか。
わたしが駆け出しの新人コンサルタントだった頃の話だ。全社の課題を診断する、とても大変なプロジェクトだった。数週間かけて社内外の関係者にインタビューをし、そこにデータ分析を重ねて、結果を相手の役員に報告する会でのことだった。相手の役員は、そのプロジェクトの重要さからか、会議室に入って来てからずっと硬い表情をしたままだった。
ロジカルな報告。しかし、役員の表情は……
報告会がスタートした。中堅コンサルタントが、これまでの社内外のインタビューとデータ分析からわかったことを報告し始めた。
漏れなく、ダブりなく、いわゆるMECE(ミーシー:Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)に報告しようとし、ロジカルに満遍なく細かく報告しようとした。
しかし、相手の役員は硬い表情のままだ。もっと言うと、硬いだけではなく、曇った表情になっていた。それを見て、報告していた中堅コンサルタントは緊張し、発話がぎこちなくなりはじめていた。
そんなときだ。同席していたベテランコンサルタントが中堅コンサルタントが話すの遮って、クライアントの役員に「いろいろとお伝えする前に、一言先に申し上げてよろしいでしょうか?」と言った。
シンプルな1メッセージが、相手に刺さる
硬い表情のまま役員はどうぞと促した。ベテランコンサルタントはシンプルな1メッセージを伝えた。
「御社は、病気です」
場は一瞬、時が止まったようだった。しかし、その止まった時が、役員の言葉で動き始めた。
「やはり、そうでしたか」
役員は一転して笑顔になり、そう言葉を発した。
それから、ベテランコンサルタントから促された中堅コンサルタントはさきほどの続きをロジカルに説明し始めたが、先ほどとは一転して、相手の役員は頷きながらページをスムーズに送って聞いていた。こうして、報告会は無事に成功し、プロジェクトは順調に続くことになった。
伝え上手は、ロジックよりも「答え」に拘る
報告会の後に、ベテランコンサルタントに聞いてみた。
なぜ、あのときに「御社は、病気です」と伝えたのか。そして、なぜ、あれが刺さったのか。返ってきた答えはシンプルだった。
「相手が一番気にしている論点が『うちの会社は本当に病気なのか?』だと思ったから、それに答えただけ。自分が病気かどうか気にしている人は、自分が病気だとまず言われないと、処方箋のどんなロジカルな説明も聞く耳持てないでしょ」
相手は自分が気にしている論点に答えがもらえると思って報告会に出席している。その論点にシンプルに答えずに、いろいろと説明する。
それでは、たとえ優れた内容でロジカルな説明であっても、相手にとっては意味がない。相手に意味があるのは、相手が一番気にしている論点に答えをもらえることだけだ。そんな内容の話だった。
相手に寄り添い、相手の問いに1メッセージでシンプルに答えよう
相手の論点とは、相手の問いだ。
相手は問いに答えをもらえていないのに、いろいろと細かいことを満遍なく報告されても頭に入ってこない。たとえそれがロジカルであってもだ。
報告するときは、まずは、相手の問いにシンプルに1メッセージで答える。それが相手に刺されば、あとはその1メッセージにちなんだことをロジカルに話せばよい。
その1メッセージが相手に刺さっていれば、相手はそこからの説明のどれをも1メッセージに関連付けて情報処理することができ、相手は理解しやすくなる。
ロジックを説明するのは後でよい。まずは相手に寄り添い、相手の問いを見定め、それにシンプルな1メッセージで答えよう。
(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)