海外進出を含め、これまで、さまざまな決断をしてきました。将来を見据え、リスクを考慮し、対策を講じながら決断したのは、人一倍怖がりだからです。
暗闇を越えた先には
強くなった自分がいた
中学時代、私は足しげく金剛山に通いました。中学校には山岳部もワンダーフォーゲル部もなく、身近に山を教えてくれる人はいませんでした。
義兄(姉の夫)から古いザックを譲り受け、父親が軍隊で使っていたハンゴウを手に入れ、使い古した毛布を自分で縫って寝袋をつくり、おこづかいを貯めてテントを買って、山に入りました。金剛山周辺にはキャンプ場がなかったので、沢筋の適地を選んでテントを張りました。
キャンプを始めたころは、陽が落ちて人気がなくなると、自分だけが取り残されたような不安を覚えました。暗闇と静けさに押しつぶされそうになりながら、朝を待つ。自分の弱さと未熟さを思い知らされる時間でした。
ですが、明るくなるにつれ不安は払拭され、元気が湧いてきます。
不安に耐えて迎えた朝は、感動的です。空気が澄んでいて、爽快でした。
暗闇を越えた先に、またひとつ強くなった自分がいました。闇に耐える。孤独に耐える。コントロールできない自然の中で、自分の心をコントロールする。圧倒的な自然の中に、あえてひとりで飛び込んでいくことに、「孤独の美学」のようなものを感じることができたのです。
前を向く力をくれる
太陽のあたたかさ
太陽の力は偉大です。そのあたたかさは、前を向く力を与えてくれます。
かつて、マイナス30度の過酷な環境下でビバークを余儀なくされたことがありました。
眉も凍るほどの寒さの中、待ち望むのは太陽です。
ビバーク中、極度の疲労状態から眠気に襲われ、ついウトウトとストーブの前で眠り込んでしまいました。ハッと目が覚めたとき、身につけていた手袋とダウンジャケットに火が移り、燃えていました。ツェルト(軽量の簡易テント)の中を羽毛が舞っているのを見て、一瞬「鶏小屋かな?」と錯覚を起こすほど(笑)、心身ともに追い込まれていたのです。