モンベル創業者・辰野勇が語る「経営」と「登山」の共通点とは?モンベルのテント(同書より転載)

登山家と経営者には意外な共通点がある。命を預ける登山では、慎重さや用心深さがなにより重要であり、組織の舵取りを任されるリーダーにも通じる資質だという。登山家であり、モンベル創業者の辰野 勇氏が、両者に共通する“備え”を綴る。※本稿は、辰野 勇『自然に生きる 不要なものは何ひとつ持たない』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです。

命を失わなかったのは
「臆病」だったから

 登山家は元来、怖がりです。

 命がけの挑戦をしながら、それでも命を失わなかったのは、私が臆病だったからです。

 過去に、多くの仲間を山で失いました。

 私の腕の中で目を見開いたまま息絶えた仲間、岩場から転落して内臓を破裂させ、痛みに苦しみながら息を引き取った仲間、雪崩とともに数百メートル下の谷底に消えていった仲間…。ふとした気の緩みと決断が生死を分けました。

 登山家は、用心深くなければなりません。

 晴れた日でも「天候が急変したらどうしよう?」と用心して、雨具を持ち歩く。日帰りの山行でも、必ずヘッドランプを持参する。食料は少し多めに持って行く…。

 油断せず、最悪の状況を想定して策を講じる。登山や川下りには、常に先を見据えたリスクマネジメントが必要です。

 経営にも同じことがいえます。