そもそも表記として、「〜してください」と「〜して下さい」はどちらが適切なのでしょうか。現代語の表記論を専門とされる佐竹秀雄氏は次のように書かれています。

「くださる」「ほしい」の平仮名表記は、「読んでください・お読みください」「食べてほしい」のような補助的な用法で使われる。漢字表記は「お金を下さい」「食べ物が欲しい」のような本来の動詞や形容詞として使われるのが一般的。(ダイヤモンド・オンライン 1月28日)

 つまり、メールで「〜して下さい」と書く人は、必要もないのにわざわざ漢字で書いていると言えます。そのような人の心理を解き明かす研究が、アメリカで行われました。

 米プリンストン大学のダニエル・オッペンハイマーによりますと、大学生にレポートを書かせると、「平易な文章を書くように心がけてください」とアドバイスしても、難しい表現や単語を使いたがるそうです(※1)。

 その理由を大学生に尋ねると、「そうすると知的に見えるから」とのことでした。

 このオッペンハイマーの指摘から推測しますと、不必要なところにも漢字を使う人には、自分を知的に見せたいという見栄っ張りな心理、あるいは、自分を大きく見せたいという自己顕示欲が隠されているのではないかと思われます。

 やたらと漢字を使うだけでなく、専門・業界用語を使う、あるいは英語を使う(「発売」でなく「ローンチ」、「議題」でなく「アジェンダ」など)という人には、虚勢を張りたいとか、特権階級であることを自己アピールしたいといった欲求が隠されているのかもしれません。

 面白いのが、これが「現実の社会的な地位」とは関係がなく、「相手からどう思われたいか」という願望と関係している点です。

 実際に、ある程度社会的な地位のある方とメールでやりとりをすると拍子抜けするくらい平易な文章を送ってくることが少なくありません。事業の成功に全身全霊を捧げているような経営者たちは、人からどう思われるかということに関心が薄いのでしょう。

「相手からどう思われるか」を過度に気にする人は、一緒に仕事をするうえで次のようなリスクが想定されます。

・決断が遅い
・問題を隠す
・本音を話さない(コミュニケーションコストが高い)
・情報の選択的提示(相手が喜ぶデータだけを提供する)

 もちろん、これらの特徴は全員に当てはまるわけではありません。こうした情報を偏見にして決めつけるのではなく、事前確率に基づく“予防的仮説”として傾向を使ってください。