スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「走ることの効用」とは?
――本書の中で、「一点集中と幸福には相関性がある」という指摘がありましたね。
栗木さつき氏(以下、栗木):はい、一点集中は能率を上げるだけでなく、深い幸福につながると著者は強調しています。
シングルタスクと幸福には相関関係があるのだ。
科学者たちの説明によれば、人は何かに専心しているときのほうが充足感を覚える。
シングルタスクにより能率が上がることは本書でさんざん述べてきたが、それだけでなく、シングルタスクを実践していると、人はより深い幸福を感じられるのだ。━━『一点集中術』
栗木:私自身、日々の生活で「いまこの瞬間」に没頭できるのは、趣味であるランニングやテニス、自然の中でのハイキングなどの時間だと感じています。とくにランニングは、幸福感や精神衛生の面で非常に大きな影響があります。
――走っているときはどんな感覚ですか。「一点集中」がもたらすフローの境地を感じられることはありますか?
栗木:正直なところ、走っている最中は「つらいな」「苦しいな」「体が重いな」などと思っている時間が9割です(笑)。また、何か嫌なことがあって、泣きながら走っているようなときもあるんです。でも、走り終わると不思議とすっきりしてるんですよね。
――苦しいだけじゃなくてよかったです(笑)。
栗木:走る前は気分が重くても、走り終わると必ず走ってよかったなと思います。また、走っていると頭の中が整理されるという感覚もあります。たとえば、訳者あとがきの内容など、デスクにかじりついているときは思いつかなかったことが、走っているあいだに「あ、こうすればいいんだ」などと思いついたりします。
――私も週末は走っていますが、平日行き詰まっていた問題が頭に浮かんで、「なんだ、たいした問題じゃないじゃん」と思ったりすることがあります。
有酸素運動で脳を鍛える
栗木:翻訳者は仕事柄、座る時間がとても長いです。最近、『歩くという哲学』(山と渓谷社)という本を読んだのですが、アリストテレスやソクラテスの時代から、歩くと頭の中が整理されるという考えはあったようです。座りがちな現代人にとって、ジョギングのような活動は必須だと感じています。
――脳を鍛えるには有酸素運動が最もいいとも言われていますよね。定期的に有酸素運動をしている人は、海馬の体積が大きくなったり萎縮を防いだりできるということで。脳の健康を思うと、これほどいい習慣はありません。
栗木:歩く、走るといった習慣は健康のためだけでなく、脳を鍛えて心を落ち着けるうえでも欠かせません。だからこそ、仕事にも暮らしにも、そんな「一点集中の時間」を取り入れてもらえればなと思います。
(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)