
【サンフランシスコ】米スタートアップ創業者のマーティー・カウサス氏(28)は日曜をオフィスで過ごしていた。
他に居たい場所などない。
カウサス氏は最近、3週連続で週92時間労働をしたとリンクトインに投稿した。一度は休暇に出掛けてみたが、仕事のことが頭から離れず、早めの飛行機で帰宅した。彼の目標は10年後に100億ドル(約1兆4600億円)企業を作り上げることだ。
動機は金銭面だけではない。「金を稼ぐならもっと簡単な方法がある」とカウサス氏は言う。社会貢献の一環というわけでもない。「ここで作るのはカスタマーサポートのソフトウエアだ。世界を救うといった壮大な構想ではない」
カウサス氏は今の仕事をボードゲームに例えた。どうしても勝ちたいと思うゲームだ。「巨大テック企業でプログラマーとして働くのも可能だ」が「カッコいいと思えない」。彼はその代わりに共同創業したAIスタートアップ「パイロン」の資金として5100万ドルを調達した。
サンフランシスコで石を投げれば、画期的製品を売り出す夢を抱くテック企業の創業志望者か本物の創業者に当たるだろう。彼らは世界中のショッピングや通信、娯楽の習慣に革命を起こしたテック長者の仲間入りを果たそうと競い合っている。
「一生懸命働くのみだ」とマッケイ・グラント氏(24)は述べた。「ハードコア(筋金入り)でなければいけない」。彼は昨年、ボストンのサフォーク大学の卒業式に出席することなくサンフランシスコに移住した。この街には「天才的な変わり者たちの居場所がある」と彼は言う。その後、AI金融スタートアップを立ち上げた。
スタートアップの最新世代は、子ども時代にフェイスブックの創業時を描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」を見ている。読み書きができるようになるとiPhone(アイフォーン)を持ち歩き、10代でプログラムコードを書いていた。成功の証しは、世界にユーザー基盤を持つ1兆ドル企業を作ることだ。その目標をつかみ取るため、彼らはめったに酒を飲まず、ワークライフバランスを鼻で笑い、24時間年中無休の競争にのめり込む(あるいは外見上はそう見える)。
「会社を立ち上げられる時に、なぜバーで酒を飲もうと思うのか」。AI金融インフラ企業コーギーの共同創業者エミリー・ユアン氏(23)はそう述べた。
彼女をはじめ20代の創業者たちは、オフィスを離れる短時間の多くを仕事関連の交流に費やしていた。一部の創業者はフィットネスクラブ「バリーズ」で体を動かしたり、「アルキメデス・バーニャ」のような市内の サウナ施設 で汗を流したりする時にしか休憩を取らない。そうした場所は、同業者と将来の資金調達ラウンドについて雑談ができる社交場となっている。