
ダイニーの退職勧奨は、生成AIの進展に伴うリストラとして注目を集めた。だが、ダイヤモンド編集部が独自に入手した同社のKPIや、山田真央CEOの社内ミーティングでの発言から、noteやメディアで語られていたAIリストラのストーリーは虚構であることが分かった。連載『スタートアップ最前線』内の特集『ダイニー“AIリストラ”の虚構』第3回の本稿では、海外投資家からの強い圧力を社内で吐露する山田CEOの姿や、虚構のストーリーに隠されていたリストラの実像、そしてダイニーの事案が他のスタートアップにとっても決して無縁ではない理由を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
AIリストラを巡る事実誤認の数々
虚構のストーリーに隠された実像とは
ダイニーの退職勧奨が大きな注目を集めた発端は、山田真央CEO(最高経営責任者)が8月6日に公開したnote「レイオフを伝えるという仕事」だった。生成AIの進展を理由に、社員の約2割を対象に退職勧奨を行った経緯を説明したが、対象者への配慮を欠いた内容がSNSで炎上した。
このnoteには、事実と異なる記述や用語の誤りが散見される。象徴的なのが、タイトルに掲げられた「レイオフ」という言葉だ。
レイオフとは、業績悪化などを理由に再雇用を前提として一時的に解雇することだ。自主的な退職を促し、従業員が任意に合意を判断できる退職勧奨とは全く別物である。
しかもこの違いを理解していたのは、他ならぬ山田CEO自身だった。7月に実施された退職勧奨に関する全社説明会では「これはレイオフではありません。そもそも日本の法律でレイオフはできません」と前置きした上で、一貫して退職勧奨という言葉で説明していた。にもかかわらず、noteではあえてレイオフと言い換えたのだ。
事実関係の歪曲は、用語の定義だけではない。ダイニーの退職勧奨で核心を成すのが、山田CEOがnoteやメディアで繰り返し語った、以下の“AIリストラ”のストーリーだ。
(1) 2024年末ごろから生成AIが急速に進展したため、Q1(25年1~3月)に採用を完全に停止した。
(2) 経営は極めて順調で、複数の新規プロダクトの立ち上げも目覚ましい成果を上げている。
(3) しかしQ2(25年4~6月)になると、北米のスタートアップやビッグテックによる急進的なAI導入やレイオフを目の当たりにし、経営判断の加速が必要だと考えた。そこで6月末、コーポレート部門とエンジニアを対象に退職勧奨を実施した。
ダイヤモンド編集部は、ダイニーのKPI(重要業績評価指標)を記した内部資料と、海外投資家からの指摘を巡る山田CEOの社内ミーティングでの発言を収めた音声データを独自に入手した。次ページではそれらを基にAIリストラの実態を検証し、このストーリーが虚構であることを明らかにする。その先には、ダイニーが陥った落とし穴が、他のスタートアップ企業にとっても決して他人事ではない理由が見えてくる。