「トランプ大統領のスピーチは、なぜこんなに響くのか?」その“単純すぎる秘密”にゾッとした
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。

「トランプ大統領のスピーチは、なぜこんなに響くのか?」その“単純すぎる秘密”にゾッとしたPhoto: Adobe Stock

トランプ大統領のスピーチは、なぜこんなに響くのか?

 いろいろなメッセージをいろいろな言葉を使って伝えるスピーチをよく見かける。日本の小学校や中学校の式典でのスピーチがその典型だろう。

 入学式や卒業式や運動会などの式典では、校長先生や来賓がスピーチする。スピーチでは、聞いている生徒たちへのメッセージがいくつも話される。

 たとえば「きっと努力は報われる」「参加することに意義がある」「他者への思いやりを持とう」「まわりの人に感謝しよう」などなど。一つひとつはどれも頷く話ばかりだ。

 しかし、そういったスピーチの多くは、残念ながら伝わりにくい。メッセージがいろいろあって一つに絞られていないからだ。

 いろいろなメッセージが飛び出すので互いのメッセージが干渉し合って、相手にとってはノイズになっている。そのノイズの海を通り抜けたメッセージがあっても、一つのメッセージに余計な言葉が混ざっていて、さらにノイズが生まれている。

 結果として、いろいろなメッセージをいろいろな言葉で同時に伝えると、よかれと思って伝えていても、得てして、ノイズだらけになり、なにも伝わらなくなる。ときとして、聞いている生徒や親たちは下を向いたり、寝入ったりしてしまう。

 このように、スピーチでのノイズとは、いわゆる物理的な雑音だけではない。一つひとつはよいことでもいろいろと言ってしまうことで生じてしまうものなのだ。

 自分も大学教員として式典でスピーチをすることが多々ことがあるので、いろいろなメッセージをいろいろな言葉を使って同時に伝えないことは気を付けている。

米国大統領のスピーチとの違いとは?

 米国の大統領たちは、その選挙戦で毎日のようにスピーチをする。しかし、スピーチではいろいろなメッセージをいろいろな言葉を使って伝えることはしない。自分の考えを1メッセージで伝えている。

 トランプ大統領の大統領選での1メッセージは「Make America Great Again」だ。オバマ元大統領の大統領選での1メッセージは「Yes, we can」だった。どちらも、ノイズが削ぎ落とされたシンプルな1メッセージで自分の考えを伝えている。

 当たり前だが、どちらも公約ではもっとたくさんのことを掲げているし、スピーチのときもこれだけではなく、もっとたくさんのことを話している。

 たとえば、トランプ大統領は2024年の大統領選のときには「Seal the border and stop the migrant invasion(国境を封鎖し、不法移民の侵入を阻止する)」などの20個もの公約を掲げていた。それでも、自分の考えの全体像を伝える大事な場面では、1メッセージで自分の考えの全体像を伝えてから、それにちなんだ話を続けている。

 すべての話が1メッセージにちなんだものであるため、1メッセージさえ相手に伝わっていれば、続く話は相手にとって意味のある情報になり、ノイズにはならない。

 大統領は相手に伝わり、相手に支持してもらえるように動いてもらえてはじめて、スピーチをする意味がある。相手に伝わらないスピーチは、それがどんなに素晴らしい内容であっても意味がない。

 このため、大統領たちは多くのことを伝えるにしても、その伝えようとすることの全体像を相手にわかりやすい1メッセージで伝える工夫をしている。

 なお、学校の式典でのスピーチと米国大統領のスピーチとで、どちらが内容面で優れているかを論じるものではない。

 ここでの論点は、「相手に伝わりやすい伝え方」という観点で考えたときに、学校の式典での「いろいろ伝える伝え方」とトランプ大統領などの米国大統領の「1メッセージでの伝え方」でどちらが相手に伝わりやすいかだ。

多くを語りたい人ほど、1メッセージを用意しよう

 いろいろなメッセージをいろいろな言葉で伝えるよりも、メッセージを1つに絞って一文で伝える、すなわち、1メッセージで伝えるほうが相手に伝わる。

 そして、ここで大事なことは、1メッセージで伝えることとは、一言しか伝えずに後は黙ることではないということだ。

 1メッセージで伝えることとは、自分の伝えることの全体像にタイトルを伝えるようなものだ。

 タイトルを先に相手に伝えることで、そのタイトルにちなんだことを続けて伝えても、それらも相手に意味のある情報になり、それらも相手に伝わりやすくなる。

 スピーチのように多くを語りたいときほど、その全体のタイトルになるようなシンプルな1メッセージを用意してから伝えるとよいだろう。

(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)