スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

一点集中がもたらす大きな力
――本書では、一点集中で「ゾーン」に入ると、大きな力を発揮できるという話が出てきました。
栗木さつき氏(以下、栗木):2014年のサッカー、アメリカ代表のティム・ハワード選手のエピソードですね。極限の集中がいかに偉大な成果を生むかという例で、とても印象的でした。
するとハワードは、とてつもないプレッシャーに打ち勝ち、数万ものサッカーファンの歓声が聞こえてくるなかで集中力を維持した方法を説明した。
「ゾーンに入るんだよ。いったんホイッスルが鳴ったら、ほかのことは何もかも消えてしまうんだ」
すなわち彼は、一点集中術を実践していたのである。━━『一点集中術』より
集中する姿は美しい
栗木:アスリートの集中の美しさは尊いですよね。そういえば先日、そんな集中力の極致を目の当たりにしました。世界陸上を国立競技場まで見に行ってきたんです。
――どの種目の日ですか?
栗木:100メートル決勝の日です。世界で一番速い人を自分の目で見てみたいと思って。
100メートル9秒台の戦いというのは、まさに一点集中どころの話ではないわけです。大勢の観客がシーンと静まり返って緊張感が張りつめるなかで、選手たちがスタートに向けて神経を研ぎ澄ませているのが会場全体に伝わってきました。1秒という時間がこんなに長く、貴重なんだと実感するほどでした。
スクリーンにアップで映る選手の顔を見ていると、「人間ってこんなに集中できるんだ」と思いました。私たちが感動を覚えるのは、彼らのこれまでの努力に加えて、この集中の美しさがあるからなのでしょう。
最も後悔する生き方とは?
栗木:同じ人間として、同じ時間を生きているのに、これだけ濃密な時間を過ごしている人がいる。そこまでは真似できないとしても、やはり濃密な時間を過ごさないと人生は損だと痛感しました。また、集中は成果のためだけでなく、それ自体が美しく、人生を豊かにする行為だと感じました。
逆に、意識を向けずに毎日をただ流すように過ごすのが習慣化してしまうと、人生がダメになってしまいます。まさに今日でも明日でも、気づかないうちに何も残らない時間を積み重ねていってしまうことは、のちのち大きく後悔してしまう時間の過ごし方かと思います。
(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)