顧客理解のための
「Must」と「Want」の見極め
顧客インサイトを深く理解し活用するためには、「Must」と「Want」の違いを押さえることが欠かせません。この2つの概念は似ているようでいて、その意味合いと役割は大きく異なります。
Mustとは、なければ困る、本質的価値に直結する要素で、これが欠けると顧客はプロダクトやサービスを選ばなくなります。一方でWantは、あったら嬉しいが、なくても成立する要素です。例えば、ビジネスチャットツールにおいて、検索機能の精度向上は業務効率やストレス軽減と直結するMust要素ですが、背景テーマの変更機能はユーザーが喜ぶWant要素であり、必須ではありません。
また、顧客が口にする要求は、多くの場合Wantに過ぎず、その裏にはより本質的なMustが隠れています。例えば、ある業務アプリで「画面のボタンをもっと大きくしてほしい」という顧客からの要望はWantです。しかし、その背景を探ると「操作手順が煩雑で、必要な機能に素早くアクセスできない」という本質的な課題が見つかることがあります。この場合、真のMustは操作フローや情報設計の改善です。
Wantに寄りすぎたプロダクトは、本質的な価値提供から外れ、短期的な満足は得られても長期的な継続利用や競争力の維持が難しくなります。逆にMustを的確に押さえることで、顧客にとって「これがないと困る」存在となり、揺るぎない支持を得られます。
「ジョブ理論」で捉える
本当のニーズ
本当のニーズを捉えるのに役立つ考え方に「ジョブ理論」があります。ジョブ理論(Jobs to Be Done、JTBD)は、ハーバード・ビジネス・スクールの故クレイトン・クリステンセン教授によって広く知られるようになったフレームワークです。クリステンセン教授は有名な「イノベーションのジレンマ」を研究する過程で、多くの新商品が失敗するのはなぜかという疑問に直面します。そして、顧客属性や購買履歴などのセグメンテーションに基づいて戦略を立てる従来のマーケティングでは、顧客が本当に何を求めているのかを捉えきれないと考えました。