2010年3月にはやはり雌の鹿が、クロスボウで射抜かれて死んだ。解剖をしたところお腹には赤ちゃんがいた。これも外国人ではなく、三重県津市の会社役員(40)である。
戦時中も奈良の鹿はよく殺された。東大寺の僧侶で仏教学者の堀池春峰氏は「十九年末、奈良公園のシカを殺して食べた人たちが三十人ほど逮捕されました。その中に東大寺の関係者が三人いました」(朝日新聞1993年4月6日)と告白している。
これらはあくまで「鹿殺し事件」として立件されたものだけなので、その前段階で蹴ったり叩いたりという暴力などが無数にあるということは容易に想像できよう。
さて、そこで愛国心あふれる人々が納得いかないのは、なぜ古来から神の使いとされてきた「奈良の鹿」を、こんな形で惨殺する日本人が定期的にあらわれてしまうのか、ということだ。
ひとつは戦時中の悲劇のように「鹿肉」欲しさである。2010年も主犯の会社役員は、「鹿肉を売って儲けたかった」と述べている。ただ、実はこのような営利目的よりも遥かに多いのが「攻撃されてイラっときた」という理由だ。
実際に奈良公園の鹿を見に行ったことがある人はわかるだろうが、実はあの鹿はかなり「凶暴」だ。「かわいいなあ」と近づくとこづかれたり、体当たりをされたりして驚いた人もいるはずだ。
それくらいで済めばまだマシで、気性の荒い鹿の場合、あの立派な角でブスリということもある。
例えば昨年9月の奈良公園の鹿による人身事故は43件もあった。秋は雄鹿の発情期で気性が荒くなるため、体当たりされたり、鹿の角で怪我をしたりする人が急増するのだ。
ここまで言えば勘のいい方はおかわりだろう。この「鹿による体当たり攻撃」が、実は鹿キックをはじめとする「鹿虐待」のトリガーになっているのだ。
観光客の怒りと報復
「鹿キック」の真相
わかりやすいのは、先ほど紹介した斧でシカを殺したとび職の男性だ。実はこの人は犯行前、友人たちと一緒に餌をあげるなどして鹿と戯れていた。しかし、それからほどなく彼はブチギレしてしまう。鹿が自分の車に体当たりしてきたというのだ。男性は検察の調書でこう述べている。







