ただ、結果としてこの「鹿キック」発言は、高市人気アップのきっかけとなる。
ネットやSNSは「よくぞ言ってくれた」と大絶賛。「中国人観光客が鹿の頭を叩いたり、蹴ったりするのは日常的に見る」と高市氏を擁護する人たちも現れ、自民党の党員・党友票も増えたという報道もある。
これにはいろいろな意見があるだろうが、個人的には「でしょうね」というくらいで、それほど驚きはない。
どういう綺麗事を並べたところで、「選挙」の本質というものは、大衆の潜在的な不満・不安を刺激することで自分の支持にもっていく、という“扇動競争”という面があることは否定できない。
そこで「外国人憎悪」を煽るという手法は、古今東西の政治家がやってきたことであり、2025年現在も最も効果の高い“選挙プロパガンダ”のひとつだ。先の選挙で参政党が掲げた「日本人ファースト」や、アメリカ大統領選でトランプ氏が「移民がペットを食べている」と繰り返し主張して、移民反対派の溜飲を下げたことを見ても明らかだろう。
そんな王道でベタな選挙プロパガンダを今回、高市氏もやってみたというだけの話なのだ。
奈良公園の鹿と暴力
日本人も加害の歴史
…という冷めた意見を耳にすると、「神の使いである鹿が外国人にキックされて怒りがわかないとは貴様、それでも日本人か!」と愛国者の皆さんから飛び蹴りをくらいそうだが、もしも本当に心の底から、鹿の安全を願っているのなら“マナーの悪い外国人観光客”を敵視、攻撃したところで、あまり意味はない。
「事実」を客観的に振り返ると、キックどころではない残忍さで奈良公園の鹿を痛めつけ、命を奪ってきたのは他でもない我々日本人だからだ。
2021年2月、奈良公園内で雌のシカ1頭(推定11歳)が、斧(おの)のようなもので頭部をかち割られて、殺された。やったのは不良外国人…などではなく、三重県松阪市のとび職(当時23)だった。







