働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。「現役時代のようなフルタイム勤務ではなく、ストレスなく、少ない時間で続けられる仕事があれば……」と考える人も少なくないだろう。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)

定年後の仕事は現役生代の仕事の延長ではない
――『定年後の仕事図鑑』は「定年後」に特化した仕事図鑑ということで、これまでにない本ですよね。本書の中で、定年後の仕事探しの前提として「定年後の仕事は、必ずしも現役時代の延長線上にはない」こと、「家計の状況と照らし合わせて、その時々で働き方を決める」ことが挙げられていました。
坂本貴志氏(以下、坂本):そうなんです。定年後の仕事は、現役世代の延長線上にはないからこそ、過去にとらわれることなく自由に選ぶことができます。家計の状況や健康の状態と照らし合わせながら、毎年仕事を変えたっていいし、体力的にきついとか合わないと思ったら辞めていいのです。
定年後には「体を使う仕事」につく人が増加
――年を取るとやはり体力の問題があると思うのですが、「体を動かす仕事」と「頭を使う仕事」でいうと、どちらが定年後の仕事として人気があるのでしょうか?
坂本:もちろんどの仕事にも両面あると思います。いわゆるホワイトカラーの仕事でも体を動かす場面はあるでしょうし、ドライバーや清掃員、施設管理といった仕事もどういう手順で仕事を進めるかなど頭も使います。ただやはり体を使う割合が多いか、頭を使う割会が多いかで分かれるところはありますね。
データを見ると、高齢になるほど体を使う仕事の割合が増えるという傾向があります。
年を取ると体力が衰えるので、体を使う仕事よりも頭を使う仕事のほうがいいのではないかと思う人もいらっしゃると思うのですが、実は逆なんです。
心身の健康維持にもなる
――それはなぜなのでしょうか。
坂本:新しい知識にキャッチアップし続けるのはやはり難しくなってくるのだと思います。たとえば新しいデジタルツールを使いこなすとか、新しい法令の知識を身につけるといったことがだんだんきつくなってきます。
それから現実問題として、目が疲れるのでパソコンを見続けられないということがあります。頭を使う仕事はどうしても目を使いますからね。ですから、自然と体を動かす仕事にシフトしていくのでしょう。
これまでホワイトカラーで仕事をされてきた方が、体を動かす仕事をするというと、「きつそう」など不安になるかもしれません。でも、高齢期に体を動かすことは心身の健康維持にとてもいいんですよ。ぜひ先入観を持たずに、仕事を選んでほしいと思います。
――本書には実際に仕事をされている方のインタビューが多数載っていますが、公園の清掃・管理をしている75歳男性は、公園に来た人が快適に過ごせるように考え、植物の植え替えや樹木の剪定なども調べながらやっているとおっしゃっていました。
坂本:体を使う割合の多い仕事ですが、その中でいろいろと考えるのが楽しいという方も多いですね。
知識をアップデートしながら教える、塾講師の仕事
――頭を使う仕事でいえば、本書に学習塾講師をされている75歳男性のインタビューが掲載されていました。日本史や英語など、どの教科も教える内容が変わってきているので知識を更新する必要があるとのこと。「そのための勉強は嫌いじゃないし、多少は頭の働きが持つんじゃないか」とおっしゃっていました。
坂本:そうですね。もともと得意な分野であることが重要なんだと思います。教育についてはそこまで大きく対応が変わるわけではなく、若い頃に身に着けた知識を使いながら、多少アップデートするというくらいなので、塾講師はおすすめしたい仕事の一つです。
難関の受験勉強については現役世代の方に教えていただくとしても、学習に躓きがちなお子さんへの個別指導を高齢の方が担当されているケースはけっこうあります。無理のない範囲で「教える仕事」もいいのではないでしょうか。
(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。