新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は、イギリスの消化器専門医が犯した「問題の取り違え」による失敗を、『EXPERT』本文より抜粋・一部変更してお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

「問題の取り違え」による失敗
ある日、患者の一人が疲れを訴えて診察に訪れた。ベサニーという四〇代の女性で、家でも仕事でも忙しい日々を送っていた。既往歴に目立ったものはなく、せいぜい消化不良がある程度だった。血液検査の結果、貧血が確認された。次のステップはその原因を突き止めることだ。それまでもベサニーを診ていた私は、いつもと違うような感じがして、何か深刻な問題が隠れているのではないかという漠然とした不安を感じた。
消化不良に注目して、私は彼女を消化器の専門医に紹介した。胃と直腸の内視鏡検査を含め、さまざまな検査を行ったが、異常は発見されなかった。医師は、問題はないと告げてベサニーを安心させた。だが数か月後、彼女は再び私のもとを訪れ、疲れがひどくなっていると訴えた。
病院の上級専門医も問題ないと言ったが、それは消化器の専門医という立場からの判断であることに私は気づいた。「問題はない」というのは、「消化器系に関しては問題がない」という意味であり、「どこにも問題はない」という意味ではなかった。私がなすべき仕事は、一歩下がって視野を広げ、消化器を疑うこと自体が正しいかどうかを考えることだった。もしかすると、問題は消化器とは無関係な場所にあるのかもしれないのだから。
結局、ベサニーの問題は初期の子宮癌だったと判明した。幸い、早期に発見できたおかげで健康を取り戻せたが、一歩間違えば見逃していたところだ。なんらかの問題に遭遇したとき、私たちはつい、それを馴染みのある枠組みの中で解釈し、最後までその枠から抜け出せなくなってしまう。問題にぶつかったら、立ち止まり、最初の地点に戻ってゼロから考え直すこと─「自分は解決すべき問題を解決しようとしているだろうか?」と問うこと─が大切であると痛感した。
(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』の抜粋記事です。)