「良い意味で『虎に翼』のイメージを覆せるように、新たな気持ちでがんばりたい」

 ではここで、“落ち武者”になった岡部たかしのコメントを紹介しよう。岡部は2024年の朝ドラ『虎に翼』の主人公(伊藤沙莉)のお父さん役で全国区の知名度を獲得した。脱力系が愛されるおじさんキャラで人気で、『ばけばけ』でも武士以外にやれることが見いだせず立ち尽くしているが憎めないお父さんを好演中だ。

 ドラマ好きな人たちは『エルピス-希望、あるいは災い-』(22年 カンテレ、フジテレビ)で一足早く注目していた。このレビューの担当編集氏は「あのとき演じていた『ノリだけで生きているように見えつつ、内心は本音と建前に揺れているテレビマン』からは、司之助さんと通じるところも感じますね」と語る。

『虎に翼』のお父さんも『エルピス』のテレビマンも司之介も、飄々としてグラデーションのあるキャラが視聴者の心を捉えるのだろう。

――『ばけばけ』へのご出演が決まったときの感想を教えてください。 

『虎に翼』でもお父さん役をやらせてもらったので、最初に聞いた時は、本当にいいのかなと思いました。でも、今回『ばけばけ』の脚本を担当しているふじきみつ彦君は、ずっと一緒に演劇をしてきた仲で、それが何よりもうれしかったですね。ふじき君が朝ドラの脚本を担当することが決まった時は、本当にちまたは歓喜に沸いたんですよ。まさか自分も出られるとは思っていなかったんですけど……いやちょっとは出るかもと思っていたかな(笑)。ずっと一緒にやってきたふじき君の朝ドラに出られることが、すごくうれしかったですね。

――演じられる松野司之介は、どんな役ですか? 

 娘への思いとのはざま、時代のはざまなど、常に「変化のはざま」の中にいる人だと思います。奥さんのフミさんのセリフにも、「父上はね、立ち尽くしちょるの」とあるのですが、時代に翻弄され、どちらにも行けないでいる司之介のことをよく表しているセリフだと思います。父である勘右衛門さんからは武士道をたたき込まれてきましたが、一方で、そうだと思えば行動できる人でもあります。特に、娘のためならまっしぐらなところがあり、この子を大事にするぞ、苦しくてもこの子のためならという親心があるのだと思います。

――トキ役の高石さんをはじめ、松野家の人たちの印象やエピソードを教えてください。 

 高石さんは、良い意味でベタベタもしてこない。でも、しゃべりかけに行っても普通にしゃべってくれるし、愛想もいいし、ずっと自然体でいる子やなぁという印象です。フミ役の池脇さんは今回が初共演ですが、ものすごく仲良くなりましたね。勘右衛門役の小日向さんは、本当に面白くて明るい人。この先、小日向さんが演じる勘右衛門が、赤ちゃんだったトキを初めて抱くシーンがあるのですが、そこで涙が出そうなくらい感動したんです。松野家のみんながトキのことを本当に思っていて、それを象徴しているようなシーンだと思います。

――ここまで撮影していて、一番印象に残っているシーンはどこですか? 

 最初の「丑の刻参り」をしているシーンは面白いですよね。最初に撮影したシーンだったんですが、皆さんと演技するのもほとんど初めてだったし、頭から最後まで止めずに撮影するという緊張感もあったので、すごく覚えています。冷静に考えると、丑の刻参りをしているのも変なんですけど、それを真面目にやらないと面白くないので、本気でそう思っているところを演じようと思いました。また、司之介が新しい事業を始めるためにウサギをいっぱい買ってくるシーンがあるのですが、ウサギが可愛いから、ちょっと笑えるんですよね。でも、実はそれが借金の元凶になるので、笑えないんです。真面目に言えば言うほど面白いところは、ふじき君の本の書き方だと思いながらやらせてもらっています。

――ドラマの見どころや視聴者の方へのメッセージをお願いします。 

 僕は、今回もお父さん役をやっていますけれど、『虎に翼』の直言さんとは人も違うし時代も違います。『虎に翼』も大好きな作品ですが、良い意味でそのイメージを覆せるように、僕もまた新たな気持ちでがんばりたいと思っています。

 ふじき君の脚本の魅力は、「会話」だと思っています。ふじき君が書く会話劇が何ページにもわたって続くところがあって、一見ただしゃべっているだけのシーンに思うかもしれないけど、そのセリフの一つひとつにキャラクターの色が出ていると思います。視聴者の皆さんには、朝ちょっと手を止めていただいて、その会話を楽しんでほしいですね。

 岡部のコメントから、押さえておきたいポイントを3点挙げておこう。

“「父上はね、立ち尽くしちょるの」とあるのですが、時代に翻弄され、どちらにも行けないでいる司之介のことをよく表しているセリフだと思います。”

“真面目に言えば言うほど面白いところは、ふじき君の本の書き方だと思いながらやらせてもらっています。”

“ふじき君の脚本の魅力は、「会話」だと思っています。”

 筆者がここまで見て感じたふじきの脚本の特徴は、同じワードを何度も何度もとめどなく繰り返すこと。「無類の○○好き」「あのあの話」「幸せ」「狐と狢」等々。呪文のようにも聞こえてくる。

「おトキを幸せにする武士になる」司之介(岡部たかし)、落ち武者になってでも“父の務め”を果たす〈岡部コメント付き・ばけばけ第9回〉

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