雑談の4つの効果

 第一に、関係と信頼の構築である。論文は「近年の研究は、雑談が企業のスタッフ間の関係と信頼を構築する上で重要な役割を果たし、それが効果的で生産的なビジネスにとって極めて重要であることを示している」と指摘する。

 仕事の成果に直結する信頼関係は、何気ない会話の積み重ねから生まれるのだ。

 第二に、緊張の緩和と関係の修復。職場での意見の対立や気まずい雰囲気は避けられないものだが、論文は「雑談を通じて築かれた連帯感は、緊張を緩和するのに役立つ」と分析する。雑談は人間関係の緩衝材として機能し、時にこじれた関係を修復するきっかけさえ与えてくれる。

 第三に、本題に入る前の好ましい雰囲気作り。会議や商談の冒頭で行われる雑談は、いわば「助走」のようなものだ。いきなり本題に入るよりも、相手が意見を言いやすい心理的な土壌を作る。

「その後のビジネストークに好ましい雰囲気を作り出す」という効果は、計り知れない。

 そして第四に、連帯感とラポール(相互信頼)の強化である。「雑談は、ラポールと連帯感を構築し、維持し、強化するという多くの点で機能する」と論文は結論づける。

 共通の話題で盛り上がることで「私たちは同じチームの仲間だ」という意識が芽生え、チームワークの向上に直結する。

効率重視の人が多すぎる?用件だけの職場の会話

 ひるがえって、私たちの日常のコミュニケーションは今、どうなっているだろうか。

 職場や学校、家庭での会話でさえ、「要件は何ですか」「結論から話してください」という言葉が飛び交っていないだろうか。時間は限られているから、無駄を省いて効率を上げよう。その考え方は、一見するととても正しく、大人びて聞こえるかもしれない。

 特に、オンラインでのやり取りが当たり前になった現代では、その傾向がさらに強まっているように感じる。

 画面越しの会議では、議題が終われば「お疲れ様でした」の一言ですぐに接続が切れてしまう。チャットのやり取りは、まるで暗号のように、用件だけが箇条書きで並ぶ。

 かつて、オフィスの休憩スペースで交わされていた、目的のない、とりとめのない会話。「あのドラマいいね」「週末どうだった?」と始まる、意図しないおしゃべり。そうした時間は、効率化の波にのまれて、どこかへ消えてしまったのだろうか。