60歳からでも「長期投資」は可能

 私のもとに家計の相談に来られる60代以上の方の中には、「長期投資はいまさら遅いですよね?」とおっしゃる方が少なくありません。

 しかし、それは誤解です。日本人の平均寿命を考えれば、80歳を超えて生きるのは珍しいことではなく、90歳まで元気に暮らす人も少なくありません。つまり、60歳からでも20年という時間を投資に充てることができるのです。

 たしかに、短期で見れば株価は乱高下します。1年で急騰することもあれば、暴落することもある。

 しかし、3年、5年、10年と期間を延ばすにつれて、こうした変動幅は徐々に収束していきます。そして10年以上の長期運用では、プラスで終わる可能性が高まるのです。

 例えば500万円を一括で投じ、年利5%で10年間運用すれば1152万円に増える。そこから毎月6万4000円を取り崩しながら残りを運用すれば、生活費を補う実効性の高い仕組みになります。60歳からの資産運用においても「長期」という考え方は決して捨ててはいけないのです。

やってはいけない投資はこれだ

 では逆に、避けるべき投資とは何でしょうか。

 私は、先ほども例に挙げたように、個別株への集中投資、FXや暗号資産の短期売買、テーマ型やアクティブ型のファンド、さらには外貨建て保険商品などを「やってはいけない投資」と普段お伝えしています。

 もちろん、経験豊富で自らリスクを取れる人にとっては戦略的な選択肢になる場合もあります。しかし、60歳から投資を始める人にとっては、これらは資産を減らす可能性の方がはるかに大きいのです。

 人生の後半戦に差しかかり、資産を大きく減らす余裕はありません。堅実に、そして確実に成果を積み重ねるためには、シンプルでわかりやすい王道を選ぶべきです。

60歳は、むしろ投資を始めるべき時期である

 60歳からの投資は難しいテーマに見えるかもしれません。しかし、私はむしろ「始めなければならない時期」だと考えています。

 年齢を理由に投資をあきらめるのではなく、まとまった金額を用意し、全世界株式インデックスファンドというシンプルな手段を選び、20年先を見据えて運用を続ける。これこそが、老後の生活を守る最も現実的で有効な方法です。

 大切なのは派手さではなく、資産を着実に守り育てる姿勢です。

 複雑な金融商品に惑わされるのではなく、世界経済の成長に乗り、シンプルな投資を続けること。それが、60歳からの人生を安心して歩むための最良の戦略だと私は確信しています。

とりうみ・しょう/慶應商学部卒業後、三井住友海上を経て2016年に株式会社Challengerを設立。金融リテラシーの普及を目指し「Private Bank College」を開設。YouTube「鳥海翔の騙されない金融学」は登録者33万人超(2025年10月時点)。東証ETF解説動画コンテスト優勝。ミドルシニアの資産形成を支援し、初の著書『だまされないお金の増やし方』(KADOKAWA)を刊行。