この手法は近年まで沖縄美ら海水族館の独擅場で、チュラウミカワリギンチャクをはじめとした多数の珍種が採集されてきた。最近は新江ノ島水族館(神奈川県)などもこの方法で深海生物を入手しているようだ。

 こんな感じで、多種多様な採集を行うのが、水族館スタッフの生業なのだ。さらに、日本国内にとどまらず、海外に採集に繰り出す園館も多数ある。その最たる例が葛西臨海水族園(東京都)で、なんと世界の“七つの海”全部の生物がいる!北極海や南極海にも自ら赴くそうで、聞いているだけで背筋が凍りつきそうだ……。

水族館の生物採集を縛る
「漁業権」とは?

 水族館の生物のほとんどはワシントン条約の規制が及ばない。だが、水族館も水族館で、特有の事情がある。それは、「漁業権」である。

 我々生物学者も採集のときによく聞く話なんだけど、海は極論を言えば、「漁師のもの」なのね。地域ごとに漁業権や漁業調整規則(注1)といったものが決まっていて、その対象である生物に関しては我々が許可なく採集してはいけない決まりになっているのだ。

(注1)漁業権/漁業調整規則:端的に言うと、海の生物資源を守るための決まり。「特定の生物の採集の制限」のほかに、例えば「ある道具の使用の禁止(例:銛(もり)や水中銃」や「採集する場所の制限」、あとは「採集する生物のサイズの制限」を指定していることもある。このため、例えば「網で採ってはいけないが、釣りでの採集はOK」のような例が存在する。また、やっかいなことに、地域によっても対象が違う。例えば、ある地域ではタコは規制の対象であるが、別の地域では(タコがそれこそ漁業権の対象のアワビやサザエを食い荒らすから)採ってもいいことになっていたりするんだよね。

 どちらにせよ、我々がよく食べている海産物にはこれが設定されていることが多いので、注意するに越したことはない。触らぬ神に祟りなし、ってことだな。