若き日の筆者(たかだか7、8年前だけどな)は、ここに光明を見出し、「水族館生物学」という一つの学問体系を提唱するに至る。皆さん、先ほどのクイズをしばし、頭の片隅に留めておいてください。

生物の死後の行方は?
死んでからの第2の活躍

 死んだ生物の一部は、水族館の手によって標本化される。博物館や学校の実験室で、生き物の標本を見たことのある読者の方もいるだろう。標本とは、端的に言うと「生きているときの姿を極力綺麗に保ったままにした死骸」のこと。

 普通、生き物は死んで生命活動が止まったその瞬間から腐り始め、崩れ落ちていくものであるが、その自然の摂理に抗うように姿を長く保つ方法が存在する。水の生き物においては、アルコールまたはホルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液)に漬けて、腐食を防止することができる。

 そして先述した通り、水族館には時折、とんでもないレアな種や、学術的に貴重な種が展示されていることがある。その生き物も、死ねばそのまま産業廃棄物として廃棄されるだけである。それは宝を文字通り、ゴミ箱にむざむざ捨てているようなものだ。その点、標本をつくれば、展示で役目を終えた後は、学問の役にも立ってくれるというわけである。素敵な第2の人生と言えるだろう。

 ……一見、かなり残酷な話と思えるかもしれない。しかし、これこそが博物館施設たる、水族館の役目なのである。

沖縄美ら海水族館にいた
謎のイソギンチャク

 さて、それでは謹んで、泉が水族館とともに成し遂げた研究例をいくつか紹介しよう。まずは、業界ではちょっと有名な話(自分としては、ものすごく有名な話だと思っている)で、筆者が一生擦り続けるであろう、沖縄美ら海水族館との研究である。

 沖縄美ら海水族館から、2019年12月、とあるプレスリリースが飛んだ。水族館の名を冠した「チュラウミカワリギンチャク」というイソギンチャクが新種として発表されたという!この研究を共同で行ったのは、私、大学院生時代の筆者だったのだ。

 沖縄美ら海水族館の予備水槽に、謎のイソギンチャクがいた。この種は、論文から遡ることなんと15年、2004年(筆者がギリ小学生だった年である)に石垣島の沖の深海から無人潜水艇により採集され、水族館の予備水槽に収容された。それから約15年も、餌を与えられて脈々と維持されてきたのだが、ずっと種類が分からず、なかなか展示に出せていなかったという。