名前がなく生態も分からない種は、展示板をつくりにくい。そして、日本にイソギンチャクの専門家は数人しかいないため、研究者に聞いてもよく分からなかったようだ。
そして2018年。大学院の博士課程の学生になった筆者が、沖縄美ら海水族館に研究で赴いた。噂のイソギンチャクの正体を突き止めるためである。予備水槽でその種を見た泉に、衝撃が走る!これ、間違いなくとんでもない種だ!
同属のイソギンチャクと
比較してみた結果……
その謎のイソギンチャク(先ほどクイズに出した1種目である)は、最大で直径25~30センチぐらいに広がる。8枚の花びら状の部分に、約百本の触手が群生し、さながらハエトリグサのようだ。こんな種、有史以来一切知られていないし、何なら属も超レアなグループに違いない!
かくして、バックヤードで生きた姿のデータを取るとともに、1個体拝借して標本をつくらせていただいた。

それからは、割ととんとん拍子だった。筆者が実験室に持ち帰って分析したところ、この種はヤツバカワリギンチャク科の、クローバーカワリギンチャク属に属する種だと判明した。(注2)
この属は、約1世紀にわたりクローバーカワリギンチャクという1種のみが含まれていたのだが、この種とは大きさ、形状が明らかに違う。
ここで、先ほどのクイズを見返してほしい。そう、クローバーカワリギンチャクは「“花びら”が大小交互に配置される」のに対し、この謎の種は「“花びら”が8枚同じ大きさ」なのである。しかも、クローバーカワリギンチャクに比べ、全長で比較すると軽く3、4倍の大きさがある。
(注2)生き物の「種」をいくつか集めたグループに「属」があり、属をいくつか集めると、巷でよく聞く「科」になる。ちなみに今回みたいに、1属に1種しかいなかったり、1科に1属しか含まれていないこともある。