UI改善から未来サービスへ――SMBCデザインの役割拡大と「Olive」の成功

メガバンクにデザインチーム!? 専門外のリーダーが挑む「翻訳者」としての挑戦――三井住友銀行 中村裕信氏インタビューHIRONOBU NAKAMURA
チャネル戦略部長。SMBCに入行後、一貫してリテール事業部門の企画業務に従事。米国大学院留学時代に専攻したe-CommerceをきっかけにIT、ネットビジネスに傾倒し、DX推進やキャッシュレス推進等のプロジェクトマネジメントを歴任。2021年にリテールIT戦略部長に就任以降は、デザインを積極的に活用し乍ら、インターネットバンキングのリニューアルや新金融サービス・Oliveのリリースに参画。2021年から3年連続でグッドデザイン賞を受賞した他、2022年に「銀行とデザイン」を上梓する等、銀行におけるデザインの重要性を対外的にも発信。現在は、デザインチームとともに、“Olive LOUNGE”やショッピングモールでの“ストア”といった新たな店舗展開を通じ、リアル×デジタルでの新たな顧客体験を創造中。
Photo by YUMIKO ASAKURA

勝沼 チーム発足以降、デザインの役割はどのように広がっていったのでしょうか。

中村 最初は、ホームページやアプリの画面やUI(ユーザーインターフェース)を考えるのがデザインチームの役割でした。いわゆる「見栄えを良くする」仕事ですね。そこからサービス設計、UX(顧客体験)設計、店舗・空間デザイン、広報部門と連携したサービスブランドやコーポレートブランドのデザイン、社内の「人財ポリシー」の浸透などに拡大していきました。

勝沼 社内にデザインチームがなかったところからスタートして、そこまでデザインの役割を拡張できたのはどうしてなのでしょうか。

中村 リテールや個別のサービスにとどまらず、全社的にデザインの力を使えば、お客さまの満足度を高められる――。そんなメッセージを、一つ一つの成果とともに社内に積極的に発信し続けました。それもあって、次第にデザインの重要性が認知されていったのだと思います。

 さらに「SMBCのアプリは使いやすい」といった声を多く頂くようになったことで、社内でもデザインの力が評価されるようになりました。また、そういった取り組みがグッドデザイン賞を受賞したことも、大きな後押しになったと思います。

勝沼 デザインチームからのメッセージ発信と外部からの評価。その両方が功を奏したということですね。一方で、他のプロジェクトやサービス開発の担当者から、「なぜデザイナーが口を出すのか」という反発はなかったんですか。

中村 実際には小さな衝突はたくさんありました。ただ、最終的な目的はデザインを通じてお客さまの利便性を高め、満足していただくことにある――その点を確認し合うことで共通認識ができていきました。顧客視点に立てばデザインは確かに役に立つ。その理解が広がるにつれて、関係者も自然と同じ方向を向けるようになっていったのです。

勝沼 これまでの取り組みの中で、象徴的な成功事例を挙げるとすればどのようなものがありますか。

中村 23年からスタートした総合金融サービス「Olive(オリーブ)」は成功例といっていいと思います。銀行口座、カード決済、証券や保険といった多様なサービスを、アプリ上でシームレスに利用・管理できる新しい仕組みです。開始2年でアカウント開設が600万件を超え、グッドデザイン賞も受賞しました。

 このプロジェクトではスタート段階からデザインチームが関わり、「お客さまに本当に求められているサービスは何か」「どのような機能が必要なのか」「既存アプリを統合すること以上の付加価値を創り出せるのか」などを開発担当者と一緒に議論してきました。デザイナーがいなければ、従来の顧客体験を抜本的に見直す現在のようなサービスにはならなかったと思います。