勝’s Insight:デザインの専門家でなくても担える、デザイン組織のリーダーシップ

<インタビューを振り返って>
SMBCのデザインの取り組みがとても興味深いのは、デザイン組織を一から立ち上げ、その活動を軌道に乗せてきたのが、デザインの専門家ではないという点だ。
中村さんは、インターネットバンキングなどを管轄する部門のトップであり、顧客接点にデザインが必要だと意識する環境にあったが、ご自身がいわゆるデザインワークを直接実施された経験はない。それでもデザイン部門をけん引できたというこの事例は、「外部のデザイナーをリーダーとして招聘しなければならない」という一般的な発想に一石を投じている。
もちろん社内人材がデザイン部門のリーダーとなるには、満たすべき要件がある。最も重要な要件は、「翻訳者」としての役割が果たせるかどうかだ。ここでいう「翻訳」とは何か。企業が抱えている課題と目指す方向性を把握し、それをデザインの文脈で語れること。そして同時に、デザインの可能性を理解し、それをビジネスや経営の文脈で語れることを指す。この両方向への翻訳を担える人こそが「翻訳者」であり、その点で、中村さんは極めて優れた存在といえる。
中村さんの行動や意識の中で、注目すべきは2点ある。
第一に、デザイナーを特別扱いせず、一社員として企業活動への貢献度で評価する姿勢だ。デザインの成果はデザインそのものではなく、組織にどれだけ寄与したかで測られるべきだという考え方である。
第二に、デザインへの強い期待と深いリスペクトである。トップ自らがデザインを信じ、その可能性を認めることなしに、ビジネスの中で力を発揮させることはできない。
中村さんはこの二つの姿勢を持つことで、巨大な金融機関においてデザインが生きる道筋を切り開いたのだ。
今後、中村さんとSMBCのデザイナーの方々は、デザインの力を社内にさらに広げていくだろう。その過程で、いかに企業価値向上に結び付けていくのか。今後の展開に注目するとともに、私自身のCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)としての活動の参考にしたい。
(第15回に続く)