肖像権や著作権の問題をクリアしていない絵や写真をトレース元とすることが問題となるが、トレース自体には法的問題はない。しかしトレースという手法自体が手抜きという印象を与えること、過去に発見されたトレース作品は元画の許諾がないと思われるものが大半であることからネット上では「トレース(あるいはトレス)」という単語自体が悪い印象とともに語られることも多い。

「トレパク炎上」にはなぜ
擁護意見がほとんど見られないか

 トレパクを巡る炎上といえば、2022年には「YOASOBI」の楽曲でキービジュアルを担当するなど人気を集めていたイラストレーターが過去の複数の作品についてトレパクや著作権侵害を指摘され、一部を認めて謝罪したことがあった。

 このケースの場合は、イラストレーターが女性イラストをアイコンに使うなど、あたかも女性のように振る舞っていたにもかかわらず、実際は男性である可能性が高い証拠が見つかったこともあり、炎上が加速した。

 また、トレパクへの指摘は近年になって始まったわけではない。20年前の2005年には女性漫画家が連載中だった漫画についてネット上の掲示板で他の漫画からの構図の盗用を指摘され、結果的に連載中止となったことがある(その後、大ヒット作品を世に出したことで再起)。

 インターネット上で数ある炎上の中でも、トレパク炎上は火力が強いと感じる。また、ジェンダー系の炎上などとは異なり、擁護する意見がほとんど見られないことも特徴だ。

 この理由としていくつか考えられるところを分析してみたい。

(1)日本の文化=漫画、アニメ

「クールジャパン」を出すまでもなく、漫画やアニメは日本が世界に誇る文化だ。今年は『鬼滅の刃』の映画最新作が大ヒットし、海外でも絶好調となっている。海外に比べて日本は街中に漫画やイラストの広告が多いし、海外ではしばしば日本発のイラストを見かけることがある。

 日常に漫画作品やイラストが溶け込んでおり、親しみを持っている人も多い。また、プロからアマチュアまで、絵を描くことに楽しみを感じている人の裾野が広い。漫画やイラストを見て楽しむ人は、当然ながらさらに多い。