かなりビビりましたが、その文献をよく検討すると、少し的外れでした。後日、改めて、文献は的外れではないかという連絡をすると、広い会議室に呼ばれ、Apple本社から来日した数人の役員と、英語での交渉となりました。残念ながらスティーブ・ジョブズ氏は亡くなった直後だったので会えませんでしたが……アメリカの弁護士ドラマのようなハッタリ、ブラフ、脅し、何でもありの交渉、もっと英語を勉強しなければと思いました。

AppleとMicrosoftで
Microsoftを選んだ理由

 一方、Microsoftは日本法人があるだけあって紳士的な対応でした。日本マイクロソフトのビルに呼ばれ、日本の偉い人に加え、アメリカの担当者もオンライン参加する形で交渉がありました。

 そのような交渉を重ねた結果、AppleとMicrosoftが最終的に同額をつけ、もうこれ以上は上げられない、という状態になりました。

 スティーブ・ジョブズが好きな僕は、Appleに売りたいという気持ちもあったのですが、会社ごと売りたい僕に対し、Appleは会社の買い取りではなく特許だけほしい、ということで、その点に関して譲りませんでした。

 これは、会社が見えない部分で負債を背負っている可能性を考えたもので、特許売却のためだけに設立した会社です、と説明しても理解してもらえませんでした。

 やっぱりジョブズいなくなって落ちたな、Appleよ……。

 そんなことも思っていましたが、Microsoftは日本法人の日本人担当者が表に出てきてくれて、日本人同士の信頼感で、会社の買い取りに同意してくれました。こうして、フリック入力の特許と特許出願、合わせて11件は、2015年、最終的にMicrosoftに会社ごと譲渡しました。

 ちなみに、気になる譲渡金額は、機密保持契約もあり、秘密です。

 さて、フリック入力の特許を得たMicrosoftは、Appleにライセンスを要求したか?

 ライセンス交渉は裁判をしない限り表に出ないので闇の中です。また、企業はお互い、たくさんの特許を持っているので、クロスライセンスといって、お互いの手札を相殺するような形で交渉するのが通常です。それもあって、なかなか特許の無効審判合戦はしません。

 その結果、フリック入力の特許はいまだに存続しているようです。