たった10字で人を動かす…「いつやるか?今でしょ」が伝説になったワケ
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。

たった10字で人を動かす…「いつやるか?今でしょ」が伝説になったワケPhoto: Adobe Stock

「いつやるか?今でしょ」が伝説になったワケ

 一生懸命にいろいろと説明しても、相手に伝わる保証はない。相手に伝わるかは、伝え手が決められるものではないからだ。

 伝わるかはどこまでいっても、相手次第である。伝え手はその確率を上げるために最善を尽くすだけだ。

 では、最善をどう尽くすか。

 その一つは、相手が悩んでいる問いに絞って答えることだ。

 相手が「今夜どうしようかな?」と考えていたら、「今夜、飲みに行こうよ」は相手の問いへのストレートな答えになるので相手に伝わりやすいだろう。

 しかし、相手が「明日のフライトは何時の便にしようか?」と考えているときに、「今夜、飲みに行こうよ」は的外れで、相手はタイミングの悪い誘いに適当な返答をしてしまうかもしれないし、疲れていたら聞き流されてしまうかもしれない。

 このように、そのときに相手が悩んでいる問いに絞って答えることが、自分の考えを相手に伝えるためには一番だ。しかし、現実的には一つ問題がある。

 相手が自分自身が悩んでいる問いを自覚できていないときだ。

 マーケティングで顧客インタビューをしたことがある人は経験があると思うが、顧客やユーザーに自分がなにに悩んでいるか、なにに困っているかを聞いてみても、あまり具体的には答えが返ってこない。

 あえていえば、なにかに困っている人でも「特に困っていない」と返ってきたりする。嘘を付いているわけではなく、自覚できていなかったり、言語化できていなかったりするのだ。

 顧客やユーザーが悩んでいることや困っていることとはニーズそのものだ。しかし、顕在化していないので、このようなニーズをマーケティングでは潜在ニーズと呼ぶ。

 潜在ニーズは自分では自覚できていないので聞いてもわからないのだ。このため、できるマーケターはインタビューで潜在ニーズを捉えるのには限界があることを理解し、顧客やユーザーの行動の観察などを併用して潜在ニーズを推察したりする。

 では、コミュニケーションにおいては、どうすると相手が自覚していない潜在している問いに答え、相手に伝わり、相手を動かすメッセージを言えるようになるか?

「問い」を伝えてから、メッセージを伝える

 伝え上手がやっている一番のコツは、「問い」を先に伝えてから、続いてその答えとしてメッセージを伝えることだ。

 相手が自分の問いに自覚的じゃないのであれば、伝え手側が相手の問いを推察し、それを先に投げかけて相手に自覚してもらうのだ。その後に、自分の伝えたいメッセージをその問いへの答えとして届けるのだ。これをうまくやっている例がある。

「いつやるか?今でしょ」

 予備校講師の林修さんが、予備校のテレビCMで受験生に投げかけた1メッセージだ。

 受験生になにに悩んでいるかを聞いたところで、自分たちで言語化できているかはわからない。そこで「いつやるか?」と、最初に相手が潜在的に気にしていそうな問いをこちらら言語化してぶつける。

 いつから自分は頑張るべきか。まわりは頑張っているけど自分はいつから始めるべきか。

 自分の中でまだ言語化まではできておらずにもやもやしていた問いを相手の受験生たちはぶつけられ、そこで潜在していた問いに自覚的になる。

 その自覚した直後に、その問いに向けて「今でしょ」とメッセージを届けている。

 ここで「今でしょ」とだけ1メッセージで伝えても、相手の受験生たちはピンと来ず、自分事化できないだろう。自分の中でまだ問いが眠ってしまっているからだ。

 そこで問いを伝え手側から提示し、相手が問いを自覚できるようにしてから、メッセージを一つに絞って伝えているので、相手は一瞬で自分事化できるのだ。とても秀逸な人を動かす1メッセージの伝え方だ。

1メッセージを伝える前に「問い」を伝えるのは一つの手だ

 シンプルな1メッセージで伝えようとすると、ついついそのメッセージ自体に頭がいきがちだ。しかし、相手に伝わり、相手を動かす1メッセージは、いきなり生まれるものではない。

 相手の問いとことん考え抜き、ときには、その問いをぶつけて相手に問いに自覚的になってもらい、それからメッセージを届けることでやっと生み出せたりするものだ。

 1メッセージでは、なにを言うかのはるか前に、なにに言うかを考えることが、まず重要なのだ。

(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)