原因を突き止めるため、布団を購入した古道具屋に事情を尋ねると、こんな悲しいわけが明らかになりました。
その布団は、鳥取の町はずれにある小さな貸屋の家主から古道具屋が買い入れたものでした。その貸屋には、貧しい夫婦と2人の男の子が住んでいましたが、夫婦は息子たちを残して相次いで死んでしまいました。残された2人は家財道具や両親の残した着物を売り払い、どうにか暮らしてきましたが、ついに1枚の薄い布団を残して売るものがなくなってしまいます。
大寒の日、兄弟は布団にくるまり、「あにさん寒かろう」「おまえも寒かろう」と寒さに震えていた。やがて冷酷な家主がやってきて、家賃の代わりに最後の布団を奪い取り、2人を雪の中に追い出してしまった。
かわいそうな兄弟は行くあてもなく、少しでも雪をしのごうと、追い出された家の軒先に入って抱き合いながら眠ってしまった。
神様は2人の体に新しい真っ白な布団をかけておやりになった。もう寒いことも怖いことも感じなかった。しばらく後に2人の亡骸は見つかり、千手観音堂の墓地に葬られた。
この話を聞いて哀れに思った宿屋の主人は、布団を寺に寄進して、2人の兄弟を供養してもらいました。布団がものを言うことはなくなったそうです……。
八雲作品から滲み出る
母への強い思い
幼い頃から物語の世界にひたってきたセツにかかると、こんな情景も八雲の目に浮かぶような響きで迫ってきたのでしょう。
「あなた、私の手伝いできる人です」
聴き終わった八雲は、たいへん喜びました。再話文学(編集部注/神話、伝説、昔話や古典文学などの物語を、現代の読者や子供に理解しやすいように書き直された文学作品)の創作を支える「リテラリー・アシスタント」のセツが誕生した瞬間でした。
ダブリンでは乳母のキャサリン、シンシナティでは最初の結婚相手マティ、マルティニークではお手伝いさんのシリリアと、その地その地で伝承を語る女性が八雲のそばにいたものでした。八雲はそうした女性にどこか母性を求めていたのでしょう。







