新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は「人を惹きつける人」が必ずやっていることを、『EXPERT』を元にしてお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

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「見る」ことが、相手の心を動かす

マジシャンの世界には、こんな格言があります。

「観客の目を引きつけたいものがあるなら、まず自分がそれを見ろ。自分に注目させたければ、観客を見ろ。」この方法は例外なくうまくいく。あなたがだれかを見たら、その人はあなたを見ずにはいられない。それが人間の本能だ。単純な原理だが驚くほど強力だ。
『一流はいかにして一流になったのか?』p.245より

つまり、「自分の視線が、相手の視線を決める」のです。

この法則は、マジックの舞台だけでなく、人間関係のすべてに当てはまります。仕事でも、家庭でも、学校でも――相手の目を見ること、つまり「関心を向けること」で、信頼関係の方向が決まります。会話が弾む人、なぜか話しやすい人というのは、例外なく「相手をよく見ている人」です。

「見ない」ことが伝えてしまうメッセージ

この格言にはもう一つの派生があります。

「観客に見られたくないものがあるなら、自分もそれを見てはならない。」
『一流はいかにして一流になったのか?』p.245より

医者や財務アドバイザーに相談したとき、相手があなたではなくパソコンの画面ばかり見ていたら、どんな気分になるでしょうか。

たとえ画面の内容が見えなくても、あなたの注意も自然とそこに引き寄せられてしまいます。「自分を見てもらえていない」という感覚は、相手の関心が自分にないことを一瞬で伝えてしまうのです。

職場でも同じです。会話の途中でスマホを見たり、パソコンを操作しながら話したりするのは、無意識のうちに「あなたの話より大事なものがここにある」というメッセージを出してしまっています。

それが繰り返されると、信頼は少しずつすり減っていきます。

視線がつくる「信頼の回路」

だれかと向き合うとき、私たちの「見る先」は、言葉よりも雄弁に心を伝えます。相手をまっすぐ見ることは、「あなたを尊重しています」という無言のサインです。

一方で、注意が相手以外に向いていると悟られた瞬間、「私はあなたに関心がない」というシグナルが送られてしまう。

だからこそ、会議でも、1on1でも、友人との会話でも、まず「何を見るか」を意識してみてください。相手の表情、手の動き、呼吸、沈黙。そうしたものを丁寧に見ることで、言葉にできない感情や思考を感じ取ることができます。

視線を向けるとは、ただ目を合わせることではありません。「あなたに関心があります」「あなたを理解したいと思っています」と伝える行為です。

人間関係は、言葉で築くものではなく、どこを見るかで育まれるものなのかもしれません。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』を元にしたオリジナル記事です。)