新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は、一流だけが知っている上達の本質を、『EXPERT』の内容を元にお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

新卒 就活Photo: Adobe Stock

「1万時間練習すれば、誰でもエキスパートになれる」

「1万時間練習すれば、誰でもエキスパートになれる」

そんな言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

ですが、この“魔法の数値”を提唱したとされるスウェーデンの心理学者、K・アンダース・エリクソン本人は、そんな単純なことを一度も言っていません。

エリクソンは、生涯をかけて音楽家やチェスプレイヤー、外科医などのエリート・パフォーマーを研究しました。その成果が示しているのは、「時間の長さ」ではなく「時間の使い方」こそが熟達を分けるという厳然たる事実です。

「1万時間」は目安であって、保証ではない

エリクソンによれば、成功したエキスパートはいずれも少なくとも10年、もしくは1万時間以上の練習を積んでいます。

しかし重要なのは、「それだけの時間をかけなければ熟達は望めない」ということであって、「1万時間やれば誰でもエキスパートになれる」という意味ではありません。

「エキスパートになるには、たんなる練習以上のものが必要だ。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.101より

この一文が示すように、一流になるために必要なのは“時間”ではないのです。

ただ漫然と同じことを繰り返しても、上達はある段階で止まってしまいます。エリクソンはこれを「習熟の限界線」と呼びました。

「習熟の限界線」とは、パフォーマンスの向上が頭打ちになった状態、ひと通りのことはできるがそれ以上の向上は難しく、本人もそれ以上がんばる意欲もないという状態を意味する。クラブレベルのテニスを楽しむ人や、移動の手段として車を運転している人などは、このレベルで満足してしまう傾向がある。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.102より

「習熟の限界線」を超える人がやっていること

多くの人は練習を続けるうちに、あるレベルで満足してしまいます。必要十分なスキルを得たところで成長を止めてしまうのです。

しかし、真のエキスパートはそこで終わりません。

もしエキスパートをめざすのであれば、ただ同じことを漫然と繰り返すだけでは不十分だとエリクソンは言う。練習は上達をめざすという明確な意志を持ち、よく考えた内容で、継続的に、エキスパートからのフィードバックを受けながら行わなくてはならない。そうでなければ、それはたんなる惰性か気晴らしにすぎない。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.102より

「もう十分できる」と思った瞬間から、エキスパートの道が始まるのです。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』に基づいた記事です。)