新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は部下をダメにする上司のたった一つの特徴を、『EXPERT』を元にしてお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

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丁寧に教えているのに部下が成長しない...

上司が力を入れて指導していても、部下が伸びないことがあります。それは一体なぜなのでしょうか。

教育心理学の世界では、「最近接発達領域(ZPD:Zone of Proximal Development)」という考え方があります。旧ソビエトの心理学者レフ・ヴィゴツキーが提唱したもので、「自力ではまだできないが、熟達者の助けがあればできる」範囲を指します。

「どんな学習者にも、すでに自力でできることと、まったく手の届かない領域があり、その中間に、自分だけではできないが熟達者の助けがあれば到達できる領域がある。それが最近接発達領域だ。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.373より

上司の役割は、この中間のゾーンを見極めることです。すでにできることを繰り返させても成長はありませんし、逆にまったく歯が立たない難題を与えても挫折しか残りません。

大切なのは、「もう少しで自力でできる」というギリギリの領域に支援を入れることです。そこにこそ、学びの芽が生まれます。

「手を出しすぎる」上司が成長を止める

部下がなかなか育たないチームには、共通する特徴があります。それは、上司がずっとそばにいることです。

「必要なときに支援を提供し、必要がなくなったら手を引くという、教師の役割が決定的に重要になる。もう少しで一人でできそうなのに、つきっきりで見守られて喜ぶ人はいない。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.373より
「熟練した教師は、建設現場の足場のように一時的な土台を提供するが、ビルが完成したら足場を撤去する。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.373より

足場をいつまでも残したままでは、建物は自立できません。マネジメントも同じです。指導が丁寧すぎる上司は、一見優秀に見えても、実は「部下の自立を遅らせる存在」になっていることがあります。

成長とは「失敗の責任」を取る経験である

ヴィゴツキーの理論が教えてくれるのは、学びの本質が「失敗の中」にあるということです。上司がすべてのリスクを取り除き、正解を先に示してしまえば、部下は考える機会を失ってしまいます。

「教師はいつまでも教え続けることはできず、どこかの時点で手放さなければならない。いつまでもそばにいたら相手のためにならない。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.374より

本当に人を育てる上司は、あえて部下に失敗の余地を残します。

「学習者に失敗する機会を与え、失敗の責任を取る機会を与えなければならない。そのようにして学習者は学んでいく。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.374より

「任せる」とは「突き放す」ことではありません。必要なときには支え、そうでないときには距離を取ることが大切です。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』を元にしたオリジナル記事です。)