「渋幕」流カリキュラムの神髄

――中高一貫校ではいち早く、年間の授業計画を通して学習内容の全体像を示す「シラバス」を渋幕は導入しています。カリキュラムにはどのような特徴があるのでしょうか。

井上 東大合格者数が2桁になったころから、中高6年間の一貫カリキュラムの方が、力がつくことが分かってきました。さらに、その6年間のカリキュラムをA・B・Cの3つのブロックに分けます。特に中1・中2のAブロックは早くよりもじっくりしっかり取り組んで、学習の方法や習慣を確立して、基礎学力を確実に身に付けるため、30人ほどの少人数での教育を行います。5教科に重点が置かれます。

――中3からBブロックに入るタイミングで、全国規模の模試に参加しましたか。

井上 中学では、日本中の上位進学校がこぞって受けるZ会の「中学アドバンスト」に、年1回だけ参加しました。論理的思考や表現力が問われる試験で、全国レベルでの力試しという点では意味があったと思います。経年でデータを比較しながら学力を見ていくと、中3の時の力は、そのまま出口である高3までつながることを体感してきました。

――そうなりがちです。桜蔭でも、中3でガラッと変わるといいますから、おっしゃるような効果があるのでしょうね。

井上 先生方も、中学の課程を終える最初の2年間(Aブロック)が大きいという意識をすごく持っています。

多摩から東大へ!日本一の中高一貫共学校「渋幕」のすべてを知る男が仕掛ける「MI」とは何か[聞き手]
森上展安(もりがみ・のぶやす)
森上教育研究所代表
1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、1988年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。

――スタートダッシュですか。中2までに中学3年間分の学習は終わらせる先取り学習ですね。

井上 それほどすごいダッシュ力というのではなく、安定した基礎固めをすることが大切だと思います。単位数に余裕があるので先取りもしますが。

――都内にある学校はどうしても塾通いが多くなりがちです。渋幕や横浜の聖光学院のように東京以外の学校は自前でやっていこうとなりますか。

井上 各自の戦略もありますでしょうから、塾通いに特に制約はありませんでした。ただ、学校の授業だけで大丈夫だよと、中学の段階では言い続けていました。

――特に女子の難関・上位校では中学の進度はゆっくりしているので東大を目指すような生徒には物足りない。理系科目の指導法が昔とあまり変わらないところもあるようで、アフタースクールに通う傾向があるようです。

井上 渋幕でも女子のモチベーションが非常に高くて、近年は理IIIにも合格者が出ていました。早い段階から塾に通う生徒もいると思います。

――中3・高1のBブロックはいかがですか。

井上 この時期は自分自身を見つめ直し、視野を広げていく期間です。芸術など一部科目が選択制となりますが、学力だけではなく、この時期には多様なキャリアプログラムの実施、卒業生講話など、いわゆるメタ認知能力の涵養を意識します。

 次の高2・高3のCブロックは、明確な将来の目標のために何をすべきかを考え、自分自身に課題を課していく「自己認識の完成」を目指す時期です。幅広い科目選択制から、受験勉強は戦略的に自分のカタチをもって臨むようにしてもらいたい、そういう指導をしていきたいと考えていました。

――受ける大学も含め、すべては自分自身で選び取る。

井上 渋幕では、進路指導はしないので、個人が自己責任で、企図するキャリアに見合う大学・学部を選択し、一人一人がその目的達成のための戦略を構築します。教員は、そのためのバックアップを行います。

 その点、明星高校では系列の大学への内部進学ができますし、学校推薦型や総合選抜型での他大学進学も多く、現役大学進学率99%と浪人生がいない状況です。中学での特別選抜クラスもありますが、国公立大学の合格実績は高校から始まるSMGS(スーパー明星グローバルサイエンスコース)の生徒がほとんどです。とても合理的ではあるとはいえ、本当はもう少し全体でも冒険をしてもらいたいとは思うのですが。

――それで、今回の完全中高一貫コースである明星Institution中等教育部(MI)の立ち上げとなったわけですね。