のれん償却費がなくなり、利益をかさ上げできれば、

「海外コンビニ事業の利益が、前期に比べ○○○○億円も増加した」

 と訴求することもできる。セブン&アイにとって、「のれん償却費」をゼロにできるIFRS基準は、アピール効果が絶大なのだ。

 しかし、経営体質そのものが「改善」されるわけではない。数値上の利益が増加するだけだ。投資家の方々が分析する際は、のれん償却費を除外して経年比較するなど、補正の必要があるだろう。

IFRSのデメリット

 IFRS基準のメリットは「毎年の費用化(のれん償却)を行わない」ことだった。対してデメリットは「のれんの価値が低下したとき、『一気に』費用化(減損)しなければならない」ことである。この『低下したとき』が怖いのだ。突然、巨額の費用が発生するからである。

「価値が低下したとき」とは、のれん、すなわちブランド力や技術力が衰え、売り上げが低迷しているときでもある。そこに、巨額の「のれん減損(費用)」が加わる。足腰が弱っているときに、強烈なパンチを食らうわけだ。企業にとって致命的なダメージになりかねない。

「のれん減損」がきっかけで上場廃止に追い込まれた企業がある。東芝である。

東芝の高掴み

「のれん額=3500億円」

 これは2006年、東芝が、時価(公正価値)約3000億円だった米国原発企業「ウエスチングハウス」を6500億円で買収したことにより計上された額である。

「価値が低下した」と判明したのは2012年。東芝の子会社となったウエスチングハウスが単体で減損を計上したときだった。翌2013年もウエスチングハウスは減損を計上したにもかかわらず、「親会社」である東芝が減損を計上したのは、2015年11月に日経ビジネスで「スクープ記事」が掲載された後だった。

 減損額は「2500億円」。これを反映した2016年度の東芝決算は、純損失「4600億円」の赤字となった。さらに、翌2017年には、ウエスチングハウスの子会社(東芝にとっては孫会社)に隠れ債務「7000億円」(※)があることが判明。同年の赤字(純損失)は「9656億円」に膨れ上がる。結果、東芝は債務超過(※※)に陥り、その後、物言う株主(=アクティビスト)の出資を受け入れたものの、対立が頻発し、2023年に上場廃止に追い込まれた。

※原発工事の追加費用=工事損失引当金(61億ドル)
※※自社が持つ「資産の総合計」よりも「負債(借入金や社債など)」が多い状態

 東芝から学ぶべきことは2つある。1つは、M&A時の(のれんを含む)資産額評価は非常に難しい、ということ。もう一つは、経営者自らが(自身の評価にマイナスとなるような)損失計上を行うのも難しい、ということである。

さて、セブン&アイはどうだろうか?