譲渡額より高い手数料
約束も反故にされる
メインバンクからM&A仲介業者を紹介され、他にも何社もの営業攻勢があった。そのうちの1社、ペアキャピタルの仲介で、L社に500万円で全株を譲った。契約上は、会社に貸していた2000万円余りを返してもらい、経営者保証や自宅不動産の担保も解除したうえで、従業員の雇用を継続することが約束されていた。
Y氏によると、ペアキャピタルの担当者が持ってきた契約書などに近所の喫茶店で署名や捺印をする程度だった。作業を済ませると、担当者に連れられて郵便局へ出向いた。そこで譲渡額500万円が入金していることを確認すると、そこに消費税分を上乗せした550万円をペアキャピタルの口座に振り込む。それが仲介手数料で、Y氏の利益はゼロどころかマイナスだった。
郵便局を出ると、担当者に誘われ、ピースサインをつくって記念写真に収まった。これで妻の介護に専念できる――。そんな思いで「落ち着いたら一杯飲もうや」と声をかけて別れた。
だが、しばらくしても経営者保証や担保は解除されない。催促すると、L社の担当者は「必ずやる」と繰り返し、ペアキャピタルの担当者からも「そんなに心配しなくても大丈夫」となだめられたというが、状況が変わらないまま銀行口座が凍結。貸付金も大部分が未返済のままで、築41年の自宅も融資の担保に入ったままとなっている。
ペアキャピタルの担当者に相談すると、契約時と同じ喫茶店で、力を貸すという弁護士に引き合わせられ、「着手金は300万円」と言われた。口座を凍結された創業者に払えるはずもなかった。
「私たち家族はどう生きればいいのか。約束を守らないL社も許せないが、こんな会社を紹介した仲介業者にも責任があるはずだ」
Y氏の声に仲介業者はどう応えるのか。
L社が買収した会社のうち
11社は営業停止で5社は倒産
L社とその関連会社による買収は、2021年10月の結婚式場を皮切りに、30社前後に上る。私が取材や登記簿、信用調査会社のデータなどで確認できた範囲では、少なくとも11社が営業停止となり、5社が倒産していた。数はその後、増えているだろう。
買収先は北海道から福岡にまで及び、業種は飲食、結婚式場、土木・建設、運輸と幅広い。同じ業界で複数の会社を買うことはあっても、買収によるシナジーや経営改善が実現した例は見当たらず、事前に見通せていたかどうかは語るべくもない。
買収先から多額の現預金を持ち出し、資金繰りを悪化させる行動が一部で共通している。ただ、L社がもっぱら資金を補給するだけで、結果的に損をしているケースも複数あった。そんな場合でも、片方または双方から仲介手数料を受け取る仲介業者は「一人勝ち」となる。







