設計会社(編集部注/L社に買収された会社)の創業者が起こした訴訟で原告代理人を務める弁護士の鈴木英司は、10社余りの買収先にヒアリングを行い、その内容も踏まえてこんな見方を示した。
「好条件を示して契約しながら、実際には履行しない例がめだつ。買収先の現預金を送金させ、必要なときに戻さないパターンも共通している。親会社に資金を預けることは一般にあっても、会社に損害を与えるほど多額で回収の可能性が低いなら、取締役らの『権限の逸脱・乱用』にあたる可能性がある。刑事上の違法性があると考えられる」
権限の「逸脱」は文字どおり、役職に与えられた権限の範囲とは言えない行為を指す。権限の「濫用」は、与えられた権限の範囲内であっても、社会通念に照らして容認されない行為を指す。代表取締役として多額を関連する会社へ送金する行為であっても、ケースによっては刑事責任を問われる可能性がある、という見立てだ。
売り手と買い手から報酬を得る
「両手取引」が持つ構造的な問題
鈴木はM&A仲介業者の姿勢についても、こう疑問を呈した。
『ルポ M&A仲介の罠』(藤田知也、朝日新聞出版)
「仲介業者が買い手に不審な点があると気づきながら、取引を急いだと疑われる事例もある。売り手と買い手の双方から報酬をもらう『両手取引』ゆえに、取引成立を優先する構造的な問題がある」
大企業同士のM&Aなら、売り手と買い手がそれぞれ金融アドバイザー(FA)と契約し、助言を受けるのが一般的だが、資金力の乏しい中小企業の場合、M&A仲介業者が双方と契約を結ぶことが多く、そこに利益相反が生じる懸念は以前から指摘されていた。
買収された30社前後のうち、十数社から協力を得て詳しい経緯を調べたところ、10社を超えるM&A仲介業者がL社を紹介していた。仲介業者が受け取る手数料は、1件あたり100万円台~2000万円。なかにはホームページがなく、個人で営むとみられる業者もあった。







