そして、その日のコーディネートもプリントシール機なら撮影できます。若者は友人とファッションを合わせてペアコーデで遊ぶことも多いのですが、スマホでは肩までしか写せません。全身を映せるプリントシール機が必須なのです。体育祭や文化祭の後もオリジナル衣装を着て撮影します。しっかり思い出に残せますね。

 また、プリントシール機は撮影自体が楽しいイベントになります。友人と一緒に遊ぶときはプリントシール機が並ぶ場所に出向き、新たなプリントシール機にワクワクし、加工や落書きで遊びます。最近は、スマホのケースを透明にして、背面に友人と撮ったプリを入れることも流行っています。いつも友達との思い出を振り返れるだけでなく、プリを持ち歩くことが友情の証でもあるのです。

人間離れした加工をする理由

 人間離れした加工は、スマホのアプリでも行われます。ショート動画共有アプリ「TikTok」やInstagramの24時間で消える機能「ストーリーズ」でよく使われているエフェクトは、目や口が輪郭からはみ出るほど大きかったり、顔が大きくゆがんでいるなど、とてもかわいいとは言えない加工があります。

 こうしたエフェクトは、主に動画撮影のために用意されています。動画で伝えたいことがあるとき、自分のメイクやヘアスタイル、顔の作りなどに言及されたくはありません。そこで、いっそのこと顔を大きく変貌させてしまうのです。ノーメイクであっても、部屋着であっても動画を撮影でき、ライブ配信も可能です。これらのエフェクトは顔の動きにぴったり合うので、違和感なく視聴できます。

InstagramのストーリーズにあるカメラエフェクトInstagramのストーリーズにあるカメラエフェクト。極端な加工のまま動画撮影やライブ配信が可能(筆者作成)

 さらに、声を加工するエフェクトもあり、コミカルな男性の声(ひろゆきさんの声は大人気です)や優しい女性の声などに変換してナレーションを付けられます。個人を主張しすぎない発信は、自分としても傷つけられることがなくアピールでき、視聴者も親しみを込めて見てくれるメリットがあります。

 また、AIによるエフェクトも人気があります。こちらも、アニメ風の顔など、人間らしさを隠すエフェクトが人気です。美しい人魚に生まれ変わるような動画エフェクトもありますが、自分を美しく加工すると「うぬぼれているのでは」と批判を受ける可能性があるため、あまり公開されることはありません。

 とはいえ、自分をアピールしたい人は、瞳にハートが入るエフェクト、韓国風のメイクでダークな雰囲気になるエフェクトなど、盛れるエフェクトを使用しています。

 盛れるエフェクトによるルッキズム(外見至上主義)に警鐘を鳴らしている国もあります。TikTokは、ヨーロッパの一部の国において、18歳未満の美顔を目的としたエフェクト利用を制限しています(参照)。若者のメンタルヘルスを守るための取り組みだそうです。

 SNSでは、簡単に見た目を比較することができ、陰口も叩けます。ルッキズムに囚われ、激しいダイエットをしたり、美容整形にはまったりしてしまう人も少なくありません。コミカルなエフェクトでの発信は、その舞台から降りて交流を楽しむことができるという利点もあるのでしょう。