鼻がいいといえばイヌだけど、
実はクマのほうがいい

 人間は情報の多くを目から得ています。一方、クマは目よりもまず鼻――つまり“におい”で世界を感じています。彼らにとって嗅覚は、食べ物を見つけ、仲間や敵の気配を察知し、広い森のなかで自分の位置を知るための大切な感覚です。特に嗅覚が優れているのが、ヒグマやツキノワグマ。脳で嗅覚を処理する領域は、イヌと同等かそれ以上とされています。

 たとえば、ヒグマの鼻腔の奥には嗅上皮(きゅうじょうひ)というにおいを感じ取る粘膜が広がっていますが、その面積は人間の数十倍です。そこで検知した情報は脳の嗅球に送られ、細かく分類・記憶されます。その際、人間が「なんとなく嗅いだことがある」と感じるにおいでも、ヒグマはにおいの種類と場所を明確に識別して記憶していると考えられています。風下から数km先のエサのにおいを感知し、何時間もたどることができるのもそのため。雪の下に埋まった動物の死骸やドングリを掘り当てることだって可能です。

 においはまた、クマにとってのコミュニケーション手段でもあります。ヒグマは木に背中をこすりつけて自分のにおいを残したり、尿でマーキングしたりすることで「ここに自分がいた」という痕跡を残します。また、発情期にはオスがメスのフェロモンのにおいを遠くから察知し、それを頼りにメスを探し当てるのです。