リーダーはどのように学び、成長するのか。マクドナルドCEOやゴールドマン・サックス元会長などの経営者、スポーツ界のトップ選手、ウォーレン・バフェットに代表される専門分野のエキスパートなど世界の成功者たちの知恵をまとめた実践の書が『Learning 知性あるリーダーは学び続ける』だ。
本書の監訳者であり、一橋大学特任教授、経営学者の楠木建氏は「世界のリーダーの叡智と経験に満ちた、いまだからこそ読むべき“座右の書”だ」と述べている。本記事では、楠木氏にインタビューを実施。生成AI時代の学びと仕事について聞いた。(取材・構成/小川晶子)

【一橋大学教授が大公開】仕事ができる人だけが知っている「ChatGPTの本当の使い方」ベスト1Photo: Adobe Stock

生成AIをどう使うか

――ChatGPTやGeminiなど、生成AIを活用している人が増えています。仕事の効率が上がるという声が多い一方で、AI頼りになると頭を使わなくなるのではという懸念があるのですが、楠木さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

楠木建氏(以下、楠木):他のあらゆる技術と同様に、生成AIは使い方次第です。使い方によっては、学びの機会を失うことになるでしょう

僕自身は基本的に「調べもの」にAIを使っています。これは非常に効率がいいですね。インターネット検索が対話的になり、さらに便利になったという感覚です。

でも、思考の代替に使うことはしません。
つまり、AIに「考えさせる」ということはしないようにしています。
これは僕の仕事の性質のせいもあるかもしれませんが、みんなと同じことをやったり言ったりしていたら仕事にならないのです。
自分で思考した結果、独自性のある見解や主張が出てくる。
そうして初めて仕事として折り合いがつくということです。

AIに難しいテーマについて考えさせてみた

楠木:先日、ある雑誌の企画で、太平洋戦争の終結はなぜ遅れたのかというテーマで座談会をしたんです。
関心のあるテーマですが、さまざまな専門家が集まる中で自分の考えを述べるというのは簡単ではありません。それで僕は事前にAIがどういう思考をするかを興味本位で試してみました

すぐに答えが返ってきました。
「さまざまな理由がありますが~」と、箇条書きで「戦争終結が遅れた理由」を述べるんです。
箇条書きでは考えが深まらない。
そうしたら仕事仲間の山口周さんが「それはね、AIに『箇条書きしないでください』って言えばいいんだよ」と教えてくれて。
確かにそうですよね。対話的であることが生成AIのいいところです

そこで、「箇条書きではなく、複数の要因は相互に連関しているので、つながりをよく考えたうえで本質的な要因を特定し、それが本質的であると考えた理由を説明してください」とプロンプトを工夫しながらAIに考えさせてみました。

――プロンプトを工夫することによって良い回答が得られると言われていますよね。その結果、どうだったのでしょうか。

楠木:ものすごく凡庸でした。確かに「それっぽい」回答です。

でも、僕がそれを座談会で言ったとしたら一撃で学者人生に終止符が打たれます。
少なくともプロの世界では通用しません

大量に供給しても、需要がなければ意味がない

楠木:生成AIは知的生産物の供給量を増やします。単位時間当たりにものすごい量のものを出力できるので、効率よくアウトプットできるように見えます。

でも、それが需要を獲得するかというのは別問題です。
かつ、供給が増えればより競争が激しくなるのは必然です。

――スピードが上がっても、そのアウトプットが選ばれなければ効率がいいも何もないですね。

楠木:これまで人間が手作業でやっていたことを機械にやらせるのと同じで、AIによって業務のオペレーションを効率化するのは問題ない。そこに技術の本領があります。

ただ、知的生産に限って言えば、そのアウトプットが自分以外の人に価値を感じてもらえなければ意味を持たないのです

生成AIは大規模言語モデルという技術をベースにしている以上、世の中にすでにあるものの集大成ですから、発達すればするほど平均回帰していきます。

効率が上がるといっても、AIを仕事の中のどの部分に使うかはよく考えたほうがいいでしょう。

(※この記事は『Leaerning 知性あるリーダーは学び続ける』を元にした書き下ろしです。)