では、なぜこんなに激痩せしているのかというと、冬眠前の栄養としてクマがたらふく食べる木の実が、シカによって日本の山から急速に消えているからだ。
林野庁の「森林におけるシカ被害の現状と対策」によれば、ニホンジカは本州だけでも246万頭(令和4年末)もいる。北海道のエゾジカも急増して73万頭(令和5年度)となっているので、合わせると軽く300万頭を超える「シカ天国」となっている。
「奈良のシカもかわいいし、たくさんいるのはいいことじゃん」と動物愛護の方は思うだろうが、実はこの300万頭が、日本の美しい自然を文字通り「侵食」している。
《生鳥獣による森林被害面積は、近年、全国で約5000ha、このうちシカ被害が約7割前後で推移》(同上)
《植栽木への食害、樹皮剥ぎ、下層植生の衰退などがあり、被害が深刻な地域では裸地化し、表面浸食が発生》(同上)
わかりやすく言えば、300万頭のシカたちが樹木を枯らして背の低いササやシダを消滅させ、土壌を壊すことで、いたるところにハゲ山をつくっているというのだ。なぜあんな可愛らしい動物が、そんなエグい自然破壊をするのかというと、「なんでも食う」からだ。
《イネ科草本からササ類、広葉草本、樹木の葉、堅果類(どんぐり)まで1000種類以上の植物を採食》(同上)
さて、ここまで言えばもうお分かりだろう。冬眠前のクマが痩せこけて、露天風呂にいた人間を襲うようになったのも、人里に下りてきてエサになりそうなものがないかと徘徊するようになったのも、つきつめていけば「山や森にある1000種類以上の植物を食べ尽くすシカが300万頭以上に激増した」ということが原因である。シカに山や森林を荒らされ、木の実を食い尽くされて、人里に下りざるを得なくなっているのだ。
だから、まずはシカを徹底的に駆除する。
環境省・農林水産省が2013年に策定した計画では、2028年までにシカは155万頭まで減らすということになっている。あと3年でこれが達成できるかは疑わしいが、猟友会を日給8000円とかでこき使うのではなく、政府が予算を確保して、しっかりと制度設計して、シカを少しでも減らすことを推進していくしかない。
そうすると、山や森の環境が多少は改善される。クマが十分に木の実を食べることができるので、痩せ細って民家に出没したり、市街地まで下りていって、人間がゴミとして排出する食べ物などを漁る必要がない。アーバンベアへ身を堕とすクマが減っていくのだ。







