……という話をすると「シカを殺すなんてかわいそう」と言い出す人もいるだろう。確かに残酷に聞こえるかもしれないが、これは日本人がやらなくてはいけない「償い」でもある。シカの数を抑えて、環境破壊も食い止めていた存在を、自分勝手なエゴで絶滅させてしまったからだ。
それは、ニホンオオカミ、エゾオオカミである。両方とも「害獣」として我々の祖先の手によってこの世から永久に消えた種だが、実はこれらのオオカミがいたことで、山や森のバランスが保たれていた。
なぜかというと、シカを狩る捕食者だったからだ。先ほどの林野庁の資料にあるような自然破壊が防げていたのは、ニホンオオカミやエゾオオカミがシカを適度に減らしてくれていたからだ。オオカミがいた時代、山や森は豊かで木の実も豊富にあった。
クマはそれを食べて冬眠に備えていればよかった。また、クマは時たまオオカミからエサを横取りするので、捕食されたシカの死骸を食べることもあった。生態系の中で腹がしっかり満たされているので、わざわざ市街地周辺まで下りる必要がなかった。
しかし、日本ではオオカミは絶滅した。捕食者が消えてマタギのような職業ハンターも激減したことで、脅威がなくなってしまったシカは爆発的に繁殖することになる。
「クマは脅威じゃないの?」と思う人もいるだろう。YouTubeなどでも、クマが子シカを追いつめて襲う映像や、ワナにかかったシカを生きたままクマが捕食する衝撃映像が流れているからだ。
ただ、先ほど触れたように、クマがシカを食べるのはオオカミからの横取りスタイルだ。クマも走ると早いが、やはりシカの方が俊敏だし、警戒心も強いのでクマが近づくのも難しい。つまり、シカにとってクマはオオカミほどの脅威ではないのだ。
このように我々が直面している「クマ被害」の根本的原因を辿っていくと、かつてオオカミを「駆除」の名で絶滅させたことに突き当たる。自分たちの身勝手な理屈で、ひとつの種を地球上から永遠に消したことのツケを払わされているのだ。
動物愛護家の皆さんは「クマを殺すのはかわいそう」というが、実はすでに我々の手は血まみれで、これからも日本の自然を守るために何十万頭というシカを屠(ほふ)らないといけない。クマを殺すべきか、保護するのかという議論の前に、まずは「人間は他の種を大量虐殺して生きている」という厳しい現実と向き合うことが必要ではないか。








