この事例が示しているのは、競合分析を「機能の有無」で捉えることの限界です。本質は、どんな課題を発見し、それにどのような解決策を与えたかにあります。比較表のマス目を埋めるのではなく、顧客がどのような進歩を求めているのかを理解し、そこに的確な解決策を提示できるかどうか――それが持続的な競争優位につながるのです。
新機能の追加が競争力を蝕む
消費者行動から見る「機能追従」の限界
家電や自動車、スマートフォンのように成熟した市場では、一般の消費者は細かな新機能の差に以前ほど敏感ではありません。多くの購買は、価格と基本的な使い勝手、そして壊れにくさやサポートの安心感といった“最低限の合格ライン”を満たしているかどうかでふるいにかけられます。
さらに、比較サイトやレビューの普及によって、消費者は短時間で必要十分な情報だけを拾い、候補を素早く絞り込む術を身につけました。その結果、使うかどうかもわからない機能の搭載は購買の決定打になりにくいだけでなく、場合によっては迷いを増やし、選択を遅らせる要因にもなります。
私たちの提供価値は、もはや「スペックの足し算」では市場に伝わりません。比較表のマス目に新項目を増やすほど、説明は複雑になり、ユーザーに理解してもらうためのコストが上がります。しかも、模倣可能な機能ほど他社も追随し、優位は長続きしません。むしろ機能の追加は、企画・開発・テスト・サポートの各工程に恒常的なコストを生み、ユーザー体験(UX)の散漫化や品質リスク、保守負債の増大を引き起こします。短期的には「穴を埋めた」達成感があっても、往々にして中長期の競争力を蝕みかねません。
こうした現実を捉えるのに有効なレンズが、狩野モデルです。狩野モデルは、1980年代に東京理科大学教授の狩野紀昭氏が提唱したモデルで、顧客満足に対する機能の寄与を「当たり前品質」「一元的品質」「魅力品質」という3種類で表します。
まず当たり前品質は、欠けた瞬間に強い不満につながる基礎要件。クルマで例えれば「走る・曲がる・止まる」という基本性能です。劣っていれば、そもそも購入検討段階で候補から外されます。ここで競合に劣後することは致命的で、最優先で確保すべき基盤です。







